始まりの日、その前日
sideジェイソン
「ジェイソン、何をしている?」
私が庭の手入れをしていると、後ろからヒョコッと御嬢様が首を出して問いかけてきた。
「庭の手入れをしているのです。花は世話をしなければ枯れてしまいますから」
「そうなのか?か弱いものだな」
御嬢様は意外だ、と言うように鼻を鳴らす。
そんな動作も愛らしく見えるのだから、美しい女性というのは得だなぁなんて思ってしまう。
「君、今日の私の服をどう思う?結構気合いを入れてみたのだが」
御嬢様はスカートの裾を持ち上げてその場でクルリと一回転してくれる。
黒色を貴重としたドレスに、白色のフリルがふんだんに使われている。
生地も高級なものだし、裁縫もとても丁寧な服だった。
胸で光る紫色のブローチもとても綺麗だった。
それらは全て、御嬢様にこの上なく似合っていた。
「えぇ、とてもお綺麗ですよ」
「そうか!」
ですが、と私は付け加える。
「このクソ暑い昼間にその服はよろしくないと思われます。もう少し白を基調とした、薄めの服のほうがよろしいかと」
「ふむ……そういうものか……」
「えぇ、ですがよくお似合いですよ」
悔しそうに呟くお嬢様に、私は忘れずフォローをしておく。
御嬢様が生まれてからずっと御嬢様のお世話をしていた私としては、御嬢様が自分で服を選ぶようになり、それなりに御洒落になってきたのは嬉しかった。
「じゃあ着替えてくるから、一緒に街に出ないか?久しぶりにオッサンの食事が食べたい」
「畏まりました。私はここで待っていますので」
「うん!」
御嬢様は笑顔で頷くと、走ってお城の中に入る。
と、それと入れ違いのように女王が城から出てくる。
御嬢様と同じ金色の髪を持つ女王は、庭いじりをしている私を見つけると、笑顔で近づいてきた。
「これはこれは、女王陛下。何の御用ですか?」
「フフッ、あの子がジェイソンに街に連れて行ってもらえるって嬉しそうに言ってきたものだから」
女王陛下はすっきりとしたドレスを着ていたが、そのまま花壇に腰をかけてしまった。
「悪いわね、ジェイソン。貴方に子供の御守りなんかやらせてしまって」
「私はとても幸せですよ、女王陛下。でなければ13年間も務められませんよ」
「えぇ。私たちが1番信頼しているのが貴方なのよ、ジェイソン。それこそ、娘を託すくらいにね?」
女王陛下は立ち上がると、ドレスについた土ぼこりを払った。
「ヴィクトリアをお願いね、ジェイソン」
「お、いたいた。こんなところにいたのかよお前ら」
私たちに声をかけてきたのは、なんとサンドラ王国の王様その人だった。
「王に女王、2人同時にこんなところにいていいのですか?」
「あぁ?言い分けねぇだろ。会議ブッチって来たんだよ」
女王陛下の直蹴りが王様の腹にめり込んだ。
声も出せずにうずくまる王様の背中をグリグリと踏みつける。
「あなた?大切な会議をブッチって来るくらいなのだから、当然とてもとても大切な用事なんでしょうね?」
「あ、あぁ……最重要だ……」
王様の真剣な声に女王陛下は踏みつけるのをやめた。
王様は立ち上がり、私に向き直って口を開いた。
「なぁ、最近ヴィクトリアが俺に冷たい気がするんだ!どうしたらいいんだ俺はブゲハッ!!」
女王陛下の見事な後ろ回し蹴りが決まり、王様は3メートルくらい吹っ飛んだ。
「いやいや、マジなんだって!最近俺とお風呂に絶対入ってくれないし!洗濯物もパパと一緒は嫌だって!食事中もほとんどしゃべってくれないんだぜ?俺はどうしたらいいんだ?ジェイソン、ジェイソーーン!!」
王様は女王陛下に引きずられて、城の中に姿を消してしまった。
それを見ながら私は、御嬢様もついに反抗期かぁ、と妙な感慨にふけっていた。
新連載、王を継ぐものです。
ロボットモノの泥臭い戦争ものとなっています。
前作、死神の剣と似た展開ですが、途中からガラッと変わるのでご安心ください。
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