「例えば毎朝のコーヒーのような」byひねもす
「結局……あんたはあたしのことどう思ってるわけ? 言っとくけど、あたしはあんたのお手伝いさんでも何でもないんだからね」
私は思い切ってタカマサにそう言った。幼馴染みのよしみでタカマサのワガママに付き合ってきたけど、もう我慢できない。やれ、生徒会の仕事の手伝いだの、購買行くから付いてこいだの。青春執行妨害で訴えてやろうか。
「そうだなあ……」
タカマサは首を傾げて考えこむような仕草をした。
「毎朝飲むコーヒーみたいだな、忍は」
「は?」
「たった一口だっていい。朝コーヒーを飲むと俺はその日の間ずっと……」
タカマサはそこでいったん言葉を切って、じっと私の方を見た。
「気分が悪くなる」
私はにっこりと笑った。
「……いっぺん、死んでミル?」
「地獄少女!?」
地獄に流してやろうか。
「まあ待て、人の話は最後まで。俺は甘党で苦いものが好きじゃないんだ。コーヒーなんざたとえ砂糖を7杯入れても飲む気はしない。だから俺は毎朝牛乳を飲む」
「そりゃ飲む気しないでしょうよ。7杯も入れたら甘すぎの上にコップの底ジャリジャリじゃない」
「しかしだ忍、聞いてくれ」
タカマサは目を伏せて、しみじみと呟いた。
「I have a dream……」
「キング牧師に謝れぇぇぇぇ」
私の声を無視して、タカマサはふっとため息をつく。
「いつか無糖でコーヒーを飲んでみたいんだ。それも毎朝」
「なんでよ」
「なんとなくカッコいーじゃん?」
一生牛乳飲んでろ。
「まああれだ。憧れってやつだな。毎朝飲むコーヒーは。俺にとっての忍もそんな感じ」
「……」
ハッ。いかんいかん。こういう甘い言葉で惑わしてくるのがタカマサの手口だ。
「無糖コーヒーなんて百万年早くてよっ」
しまった、口調が変になった。動揺するな自分。
「いや、俺は日々進化をとげている。無糖コーヒーが飲める日もそう遠くはないだろう」
「進化って、例えばどんな?」
「うん、牛乳は無糖で飲めるようになった」
牛乳に砂糖……えっ?