優勝校
高校サッカーの優勝が決まったとき、敗者は涙を流すのみ。
空気は、大変重苦しいものになっている。
冬の全国高校サッカー選手権。たった今、優勝校が決まったのだ。強豪で全国に名を轟かすF高が、接戦に競り勝ち、五回目の優勝をした。
目の前で喜ぶイレブンに対し、こちらの学校は沈みこみ、涙を流す人間までいる。
「おまえらは、よくやった」
監督は声をつまらせて行った。強面で知られる監督だが、今は男泣きで顔を歪めている。その顔を見るだけで、部員達はより一層、悲しみにくれた。特に、これが最後の大会となる三年生は、しゃくりあげながら涙を流していた。
「オレがふがいないばかりに……」
うなだれた監督に、部員から声が飛ぶ。
「監督のせいじゃないっす!」
「俺らの……力が足りなかったんです」
三年生の涙を見て、後輩部員たちは皆目をうるませていた。
「相手は強かった。讃えて、また来年挑戦しよう」
部長が叫ぶと、部員たちは呼応して士気をあげた。
「来年こそF高を倒すぞ!」
「おぉー!」
「相手は伝統校ですもんね。スカウトの数もハンパなかったですし、負けても仕方ないですよ」
一年生の女子マネージャーが、先輩マネージャーに言う。
「最初から勝負は見えていた、なんて諦めたら負けよ? 相手は強かった。でも、私たちは強豪相手にチャレンジしたんだから、誇りを持っていいの」
諭すように言われた一年生マネージャーは、不服そうに言った。
「チャレンジしたことに違いはないけど……」
そして、首を捻り、小さな声で言った。
「地方予選一回戦、7―0で負けたのに、F高をここまで目の敵に出来るって凄い」
ここは、試合会場ではない。自分達の学校だ。
テレビでF高の全国優勝シーンを見ているだけ。テレビを見ながら、狭く寒い部室で男達は泣いていたのだった。
了




