不貞の妻
ブラック風味のショートショート。
兄弟の中で、恵梨奈だけが浮いていた。兄と姉がいるが、二人とも端正な顔立ちをしていて、近所でも学校でも評判だった。勉強も運動も出来る。
けれど、恵梨奈は凡人だった。何もかも、二人には敵わなかった。けれど、別段仲が悪いわけではない。二人は恵梨奈によくしてくれている。恐らく、普通の兄弟のように。
でも、きっと……。恵梨奈には確信があった。両親は、兄弟に隠し事をしているはずだ、と。いくつかの仮説をたててみた。
中学生になった恵梨奈は、散々躊躇った挙句、覚悟を決めて母に尋ねた。
「お母さん……私、お母さんの本当の子供?」
リビングでくつろぐ母は、一瞬大きな目を見開いた後、笑いとばした。年より若く、美しい。
「何言ってるの。恵梨奈は正真正銘私の可愛い子供よ」
そして、恵梨奈を抱き寄せた。キッチンと同じ母の匂いを感じながら、また尋ねた。
「じゃあ、私はお父さんの本当の子供?」
母はぴくり、と動いた。恵梨奈は目を閉じた。予想はしていたから、あまりショックはない。震える声が頭に響く。
「何、言ってるの。お父さんの子供に間違いないわ。絶対。顔だって、お父さんにそっくりじゃない」
母はぎゅ、と肩を強く抱く。確かに、父とは顔が似ている。恵梨奈は力を込められた母の手を振りほどいた。
誤魔化してもだめだ。恵梨奈は母を睨みつけた。
「じゃあ、お兄ちゃんとお姉ちゃんが、お母さんと浮気相手との子供だ」
恵梨奈の脳裏に、自分にそっくりな冴えない顔立ちの父がよぎった。
了