表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

食べられた武器

 頭が割れるように痛い。

 最近の疲れが、持病の偏頭痛として表れてしまったようだ。

 夫には申し訳ないけれど、今日は早めに寝かせてもらおう。しっかり者の夫のことだ、適当に夕飯を作って、自分で食べてくれる。自立した夫で助かった。

 私は横たわっていたリビングのソファから起き上がり、よろよろとキッチンへ。ふらふらして少々の吐き気もある。かすむ目で、冷蔵庫にはりつけてあるホワイトボードへ伝言を書き連ねる。

「あたまがいたくて……あれ、漢字が出てこない」

 酷い頭痛の時は思考が停止する。夫もそれをわかってくれるだろう、とひらがなで書き連ねた。そうそう、冷蔵庫に入れてあるけど、あのお惣菜は、腐っているから食べないように、と忘れずに。

 あとは頭痛薬が効いて、眠れることを祈ろう。


 薬が効いてくれたのか、次第に頭痛は治まっていた。気がついたら一度も起きることなく朝まで寝ていた。朝の五時だった。

 早めに起きて、手の込んだ夫の朝ごはんを作ろう、と起きる。体がとても軽い。たっぷり眠れたおかげだ。無茶を言って起こさない夫に感謝だ。しかし、夫は寝室にいなかった。布団が乱れていたので帰ってきてはいるのだろう。

 リビングに行くが、夫の姿はない。帰宅した形跡はあるが……。

 トイレで水が流れる音がした。ああ、トイレにいたのか、と安心してそちらを見やる。すると、真っ青な顔で、腹を押さえている夫がいた。脂汗が額に浮かんでいる。

「どうしたの?」

「朝方から、ひどい腹痛で……」

「悪いものでも食べたんじゃないの?」

 そこまで言って思いつく。常温だとニオイがきつくなるので、あえて冷蔵庫に入れている。慌てて冷蔵庫の扉をあけると、お惣菜はなかった。

「昨日のだから、お惣菜は食べないでって書いたじゃない。まさか食べたの?」

 すると、夫は愕然とした表情を浮かべる。眉をしかめながら、苦しそうに続ける。

「あれは、野田くんからもらったものじゃないのか?」

 のだくん? 誰のことを言っているのかわからなかったが、そういえば夫の部下にそんな名前の人がいたと思い当たる。

「どういうこと? あなた毒を盛られたの?」

「そんなわけないだろう」

 呆れて呟いたあと、夫はよろよろとキッチンのホワイトボード前に歩いていく。

「『ずつうがひどいのでねます、ごはんはじぶんで。おそうざいはきのうのだから』って……」

 面倒で、短文で済ませたホワイトボードの文字。今見てもよろよろした文字だが、充分読める。何を読み間違えたのだ、と寝起きの頭で考えてみる。

 きのうのだから。

 昨日、野田から。

 嘘でしょ、って脂汗をたらす夫を見る。

「賞味期限が昨日の物だから、ってことよ。漢字書くの面倒で。それに、呼び捨てにした時点でおかしいって思ってよ!」

 なんという間違いだ、とちょっと小ばかにして夫を見る。

「もしあれがただの腐った食べ物じゃなくて、毒を盛られていたら……俺死んでたな」

 あぉっ、と妙な声をあげると、夫はまたトイレへ駆け込んだ。

 なるほど。そういううっかりミステイクな殺人も、あるにはあるわけか。

 結婚三十年目にして、私はいらぬことを考えてしまった。



  了


花梨‏@ka_rin_91312月25日

花梨さんは『食べられた武器』というタイトル(テーマ)のショートショートを「地口オチ(ダジャレ・言葉遊び)」で書きましょう。プラス「頭」の要素も入るかな? #shortshortmaker http://shindanmaker.com/420064


こちらの診断メーカーからお話を考えました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ