効果覿面な薬
何度も緊急外来にお世話になる。特効薬があればいいのに…。
どうしても欲しいもの。
特効薬。
それさえあれば、こんなに苦しい生活から抜け出せるのに……。
深夜、体調を崩して訪れた病院では、またか、という当直医の顔に、痛みも増す。好き好んでわざわざ腹をかかえてタクシーに乗り、ここへ来たわけではないのに。
「当直医と顔見知りになるって、余程ですよ」
パソコンの電子カルテを見ながら、銀フレームのメガネを押し上げる。眉間のシワと、やせた体から神経質そうだとは思っていたが、ここまで露骨に言われる筋合いはない。
「仕方ないじゃないですか、アイタタタ、もっと優しく」
痛み止めの点滴を腕に刺される。
「きちんと薬を飲んでください」
言われなくてもわかっている。私は唇を噛む。安心もあいまって、痛みはひいていった。
「新しい薬、出してくれませんか」
「いや、それは主治医の先生に……」
「また緊急外来に来ますよ」
脅すように言うと、当直医はメガネをおさえる。
「お話は聞きましょうか。私から主治医の先生にお伝えしてもいいですし」
融通がきかない。しかしこれ以上困らせてこの当直医にストレスを与えるのも可哀想だ。
「あの、薬を飲み忘れない薬って、あります?ついつい薬を忘れるからこんなことに……」
点滴で動けないことをいいことに、デスクにあった剥がせるメモを荒々しく私に手渡した。自分で書け、と言うことらしい。
「点滴が終わったら看護師を呼んでください。お大事に」
ずいぶん荒々しいお大事に、だった。当直医は肩をいからせながら次の患者を呼び込んだ。
終