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‐第1話‐本日より地球を守ることになりました。

 特撮ヒーローもの?です。王道ヒーローものや、逸般ヒーローものなどありますが、うちのヒーローは逸般の方に入ります。真面目にバトルもするけど、日曜朝7時半には絶対やらない、そんな感じのヒーローです。

 あらすじにもある通り、女性主人公が、変身中は見た目も声も男性になっています。男装と言っていいかもわかりませんが、苦手な方はご注意を。


「気に入ったとこ見つかんないなあ。」

 そう言って、青に所々紫のマーブル模様の入った肌をした、派手な格好の人物がつぶやく。頬杖を付きながら背中を丸め、右手でテーブルの上に浮かぶ画面を操作して様々な写真を眺める。首に巻いたファーのマフラーがときどきずり落ち、視界を邪魔した。

「御眼鏡に適う所はございませんか……。」

「辺境過ぎて、他の星の奴らが手出してこないってのはいいけどねー。どうもここに住みたいって所がないね。けど、せっかくここまで来て、宇宙船内で寝泊りっていうのも味気ないし、どこか一ヶ所、住むとこ決めないと。まあ……。」

 玉座の様に豪華な椅子の背もたれに、ドサッと勢いよくもたれかかる。

「最終的に、この星は全部私の別荘になるんだけどね!」

 移動させた宙に浮く画面を細い指で弾く。そして、次の写真が出てくると、目を軽く見開く。

「ミィレ、これすごく綺麗!」

「ああ、着物(キモノ)という、日本(ニホン)という国の民族衣装ですよ。もっとも、今では普段使いされている者は少ないとか。婚礼や葬儀、成人の儀や祭りの際に着る者はある程度いるようですが。」

「着てみたいなぁ……!あ~、着てる人も素敵だよ。いいなー。」

 うっとりとしていた顔に、笑みを浮かべると、右手が勢いよく画面をはじき飛ばす。

「私の初侵略拠点!!日本ニホンに決めた!」

 椅子から静かに立ち上がり、宇宙を映す窓辺に近寄る。蒼い星に向けて、その手を向ける。

「始めるよ……。地球侵略!!」




(あったかくなってきたなぁ。)

 賑やかな街中、春も本番となってきた頃、彼女はビニール袋を片手に歩いていた。歳は二十歳はたちほど。彼女の持つビニールの中には、キャベツや玉ねぎなどの食材が透けて見える。背中のリュックも、買ったものが詰まっているのか、重そうに形を変えている。

(遠出したからって買いすぎたかな。でも古本屋アパートの近くにないし、ちょとだけ買ったんじゃ電車代もったいないし。)

背中の荷物に引っ張られまいとして、背中が少し丸まる。

(でも、探してたの買えたし、帰ってゆっくり読もー。)

 そんなことを考えながら駅に向かって歩いていると、こちらに向かって人の波が押し寄せてくる。中には悲鳴を上げている人物までいる。彼女はその勢いに怯み、ショーウィンドウに体を押し付けて人波をよける。驚くままに立ち尽くしていると、次第に人は少なくなり、彼女だけがポツンと取り残された。

「何今の……。」

 あっけにとられるものの、彼らの走ってきた方向へ行かなければ駅には行けない。怪訝に思い、警戒しながらも、そちらに向かって歩を進める。

 駅前広場に近づくにつれて、異変を察知する。物の壊れるような音や爆発音がどんどん大きくなってくる。ビルの隙間を抜けた彼女は、物陰に隠れてそっと広場の様子を伺う。

 彼女は自分の目を疑った。自分の10数m先にいるのは、二つの人影。片方は、2m弱はある人型のロボットの様なもの。細身の銀色の体に、目元にはバツマークを横に引き伸ばしたような模様が見える。もう一方は、ピンクのフルフェイスヘルメットと全身を包むスーツを身につけた人物。ヘルメットの耳の部分には、接触部分にリングのついた半球状の出っ張りがあった。ロボットの方は腕についている銃から、スーツの人物は手に持つ若干丸みを帯びた銃から、互いに光弾を打ち出しながら戦っている。まるで、戦隊物のようなシーンである。しかし、外れた光弾が壁を削る音や、崩れる建物、焦げ臭い匂いが目の前の光景が現実であることを示す。

 両者が一度息をつく。周りは静まり、ガラリとコンクリートの欠片が崩れる音だけが響く。

「予想もしてなかったよ。地球の科学力っていうのは、もっと低いものだって聞いてたから。」 

 妙に響く、機械音声で呟く。それと同時に、ロボットが腕と足を組む。銀色の体が光る。

「ある程度壊して、脅して、それでおしまいになると思ってたのになぁ。簡単に侵略できなさそうだね。」

(侵略!?あんなのが攻めてくるの!?)

スーツの人物が銃を構え直しながら応える。大人びた高い声だ。

「当たり前!!地球に手出しなんかさせるもんか!」

「そのわりには、苦戦してるねぇ。」

「うるさいっ!」

「まあ、アンタとこの間やりあったのとは比べ物にならない装甲だし、アンドロイドの俺と違って、アンタはどうしても疲労する。勝ち目ないさ。」

「やってみなくちゃわかんないよ!」

「そうかい。じゃあ……。」

相手が勢いよく突進してくる。放たれた弾がかわされる。アンドロイドの手がスーツの彼女の首を掴む。

「やられちゃったらわかるかな!!」

 体が吊るされ宙に浮かんだかと思うと、そのまま彼方へ投げ飛ばされる。向かう先は……。

「え……。」

 隠れて見ていた彼女のところである。

(ちょっとー?!)

 慌ててビルの影に身を隠す。鈍い音を立ててスーツの女性が壁にぶつかる。

「う……ぁ……。」

 呻きながらも、彼女が立ち上がろうとする。思わず隠れていた場所から飛び出し、傍にしゃがみこむ。

「だ、大丈夫ですか……?」

「あなた、まだ逃げてなかったんですか!?」

「それよりもあなたが!」

「!!危ない、伏せて!!」

 服の襟が掴まれ、スーツの彼女が覆い被さる。一瞬遅れて、光弾が雨あられと襲いかかってくる。

 轟音に、耳を塞ぐ。目をつぶり、体をギュッと硬くした。

 しばらくして、覆い被さっていた体がどけられる。煙が薄くあたりを覆う。

「ケガは……ないですか……?」

 そういう彼女のメットからは、破片がこぼれ落ち、バチバチとショートするような音を立てている。

「あ……あ……!」

(うちのせいだ!うちが出てきたせいでこんなことに!)

「逃げて下さい。せめて、建物の影に隠れて……。」

 そう言うと、力なく壁に寄りかかる。

「あなたの方が大変ですよ!」

「でも……。」

「こっちへ!」

 姿勢を低くしながら、スーツの彼女を抱えて引きずり、ビルの陰の路地へと入る。

「ありがとうございます。ごめんなさい。情けないですよね。」

 息も切れ切れに言う。

「謝るのはうちの方です!うちが余計なとこに出てきたせいで、こんなケガさせてしまって……。」

「あたしは大丈夫です。このスーツ頑丈なんですから!それよりも、早く逃げて下さい。」

「あなたはどうするんですか?」

「ここに、残ります。」

「そんな、あいつに殺されちゃいますよ!」

「特別隊に情報はいってますから、助けは来ます。だから……。」

「いつです?いつ来るんです?」

「……。」

 二人がそんな問答をしていると、先程までいた方から、足音と声がする。

「いない……。まともにくらったはずだけどな。」

 かすかに聞こえる足音が、こちらに近づいてくる。

「早くして下さい!逃げる気ないんですか!?」

「うちのせいでケガして倒れてるのに、置いていけるわけ無いでしょう!あなたが逃げないんだったら、うちも逃げませんっ!」

「強情っぱり……!」

 メットの下で、唇を噛む。

(どうしよう。この距離、この人に連れてもらっても、ましてや自力でなんてもう逃げられない。助けもいつ来るかなんてわからない。このままじゃこの人も一緒に殺されちゃう!)

 彼女は少し黙ったあと、左腕を上げ、手首につけた装置に向かって静かに言う。

「レッドスーツ転送装置、転送。」

 すると、光をまとって、徐々に手首の装置と同じ形の機械が姿を現す。カラーリングはやや異なり、赤の部分が多くなっている。

「うわっ、何ですかこれ?」

「これを腕につけて下さい。」

 驚いて、丸い目を更に丸くする彼女に、装置を差し出す。

「え?」

「逃げるつもりがないんだったら、お願いします。助けて下さい。」

 彼女の手を取り、装置を渡す。

「あたしと同じ様に変身して、戦って、助けて下さい……!」

(一般人のこの人を戦わせるべきじゃない、こんなことやらせるべきじゃない。でももう、あたしにはこれしか思いつかない!)

「……わかりました。うちが戦って、助けます!」

 意を決し、掌の装置を力強く掴んだ。荷物をすべて地面に下ろす。

「それで、どうすればいいんですか?」

「腕につけてから、手前側の側面、1番左端のスイッチをスライドさせて下さい。」

「こう、ですか?」

「上の面の黒い部分に指を置いて、身体情報を登録して下さい。終わったら、装置に『レッドスーツ、転送』と叫べば、声紋登録と同時にスーツの転送が始まります。」

「わ、わかりました。……レッドスーツ、転送。」

 彼女が装置に向かってそう言うも、何も起こらない。

「あ、あれ?もしかして故障!?」

「……いえ、単純に声が小さくて認識できてないんだと思います。」

「えっと、レッドスーツ、転送……。」

 いくらか大きめの声で言うが、反応はない。

「何してるんですか!もっと大きく!!」

「いやだって、二十歳になるいい大人の、しかも女がやるとなるとちょっと恥ずかしい……。」

 ガシャンガシャン、と近くで金属のぶつかる様な音がする。さっきまでよりも大きい、敵の足音だ。

「あいつ来てますよ!死んじゃいますよ!!」

「~!」

 目をつぶり、拳を握り締める。顔に赤みがさす。

(そうだ、恥ずかしがってる場合じゃない!この人とうちの命が懸かってる!)

 大きく息を吸い込んだ。

「レッドスーツッ!!転送ォォォォォッ!!!」

 ビルの間に声が木霊する。同時に足元から彼女の体が光に包まれ、赤いスーツを身にまとっていく。

 瞬く間に、彼女の全身が赤いスーツとヘルメットに包まれた。

「すごい……ホントに変身した……。」

 と、驚きながら自分の手を見てつぶやくも、すぐに異変を察知する。

「あれ?なんかうちの声低い?」

 自分の喉元を押さえながら、手袋をはめた様に白い、スーツの手の部分を見つめる。

「なんか手も大きいし……。」

 周りをキョロキョロと見回すと、いつもよりも目線が高い。

 ここで、彼女もハッとする。

 自分の体を見下ろし、腕を撫で、胸元を触る。そして、わなわなと震えながら叫ぶ。

「うち、男になってるーっ!?」

 ピンクスーツの彼女の方にかがみ込んで、訴える。

「なんで!?どうしてうち男になってるんですか!?」

「男になってるというよりは、見た目と声が男性の様になってるだけですよ。体はちゃんと元のままです。」

「男の様になってるのはなんで!?」

「男性用のスーツとの体格差を埋めるシステムと、個人特定を防ぐための変声機能が働いてるからですよ。」

「なんで男性用のスーツ!?」

「仕方ないじゃないですか!!訓練も何もしてない、一般の人に使える様な戦闘補助機能付きのなんて、そのスーツだけなんですから!!」

「あのー。」

 声のする方を二人が振り向く。さっきのアンドロイドが、壁に寄りかかりながら立っている。

「なんかよく分かんないけど、ピンチにナイトが登場した……ってところかな?」

「うち、そんなんじゃないっ!!」

(むしろナイトにきてもらいたいよっ!!)

 赤スーツの彼女が食ってかかる。

「まあ、まとめて消えてくれればどうでもいいけどね!」

 相手が腕の銃を構える。

「ピンクさんつかまって!」

 そう叫ぶと、腕にピンクの彼女を抱えて飛び上がる。

 二人を追う様に光弾が壁を削り取る。それを、ビルの壁を蹴りながら上昇して、器用にかわす。

「初めてでよくこんな器用に……。」

「なんとなくの感覚です!」

 ビルの屋上に降り立ち、そのまま次のビルに向かって走り出す。

「ピンクさん、なんか武器は出せないんですか!?」

「出せます!あとあたしの名前、愛海香あみかです!」

「愛海香さん、武器の出し方は!?」

「『Sガン、転送』でさっきあたしの使ってた銃、『Lソード、転送』で剣が呼び出せます!でも、どっちにしてもあたし降ろさなきゃ使えませんよ!」

「じゃあ、次の次のビルの屋上入口の陰に降ろすんで、その前に敵の弱点とか教えて下さい!」

「以前戦ったのと基本の作りが同じなら、人工知能チップかエネルギーエンジンを壊せば倒せます!」

「位置は!?」

「人工知能チップは不明、エネルギーエンジンはあいつの左胸です!!ただ、エンジン付近の外装は特に硬くなってますし、エンジンは損傷すると爆発するので注意して下さい!」

「了解です!!」

 そんなやりとりをしているうちに、目的地に着く。しゃがみ込んで、愛海香を降ろす。

「じゃあ、ここで待ってて下さい。」

「……ごめんなさい。巻き込んでしまって。」

「首突っ込んだのはうちの方だし、謝らなくちゃいけないのもうちです。あいつ倒して、きっちりケリつけます!」

 そう言って、立ち上がる。それを止めるように、愛海香が声をかける。

「あの!……行く前に、あなたの名前聞いてもいいですか?」

「……死んじゃったら連絡先に困るとか考えてません?」

「えっと、ちょっと。」

「死にませんからね!」

 溜息混じりにふうっと笑って、彼女は低い声で応えた。

坂塚辰巳さかつかたつみ、です。」

 そして、愛海香に背を向け、屋上入口の陰から飛び出していった。 




「潔く、出てきてくれたか。降参でもしに来た?」

「あんたを倒しに来ました。」

「そうかい。この星の人間ってのは、つくづく出来もしないことを喋るのが好きらしい。」

「あんたはあんたでAIに『危機感』ってものはインストールされてないみたいだね。」

「『危機感』ってのは自分の身が危ないときに感じるもんだよ。」

 銃口が向けられる。

「今のあんたみたいにね!」

 光弾が辰巳に向かって飛んでくる。横跳びしながらそれを避けて叫ぶ。

「Sガン、転送!」

 辰巳の左手の中に、さっき愛海香が持っていたのと同じ銃が現れる。それと同時に、メット越しの視界の中に、濃いオレンジの文字と薄いオレンジの照準器が示された。濃いオレンジの文字は【normal shoot】と【charge shoot】で、今は【normal shoot】の横に縁取りの三角の矢印が付いている。

(照準を合わせて撃てってことかな……。で、チャージして撃つこともできる、と。)

 両手で銃を構えると、照準器の色が濃くなり、赤い点が表示される。

(なるほど、そういう仕組み。)

 辰巳は相手に狙いをつけようとするが、止めてるはずの手が止まらない。照準器の中で点はガチャガチャとした軌跡を描き、それが赤の細い線で示される。

(どうしよ……!狙いが……!)

 そんなことをしている間に、また銃口が向けられる。避ける一瞬前に、辰巳は思い切って引き金を引いた。赤い点は敵の向こうの空にある。

(失敗だ!)

 辰巳が倒れ込み、敵の弾が彼方へ飛ぶ。次弾に備えて辰巳が体勢を立て直す。

 すると視界に、思いもしなかったものが映る。左肩の関節部分を打ち抜かれたアンドロイドが、バランスを崩している。

「やってくれるね……。」

 彼女は予想外のことにしばし固まる。

(今、外したはずなのに……。)

 そう思って照準器を見る。ガチャガチャと描かれた軌跡の真ん中ぐらいの所、線が重なりあった部分に赤丸が表示されている。

(そっか、戦闘補助機能ってこういうことか……。ある程度狙えば、自動でそこに向かって弾が飛んでいくんだ。)

 銃を固く握り締める。

(身体能力の強化もすごいし、これなら弾も当てられる。できる、いける!)

 再び辰巳が相手を狙う。デタラメな狙いも、補助のおかげで見事に右肩関節部に命中する。

「この……調子に乗って……!」

 負けじと相手も連射を繰り出す。しかし全弾、左右の反復横跳びでかわされる。弾が途切れるその合間にまた辰巳が撃ち返す。右肩に集中的に光弾が降り注ぐ。

(こいつ……銃のついてる腕を落とす気か!)

 途端、辰巳の弾が当たらなくなる。当たっても、右肩からはすべて外れている。

(当たる場所が分かってれば、よけれるし、防げる。それにしても、狙撃の命中や身体能力はさておき、構えや動きがあんまりにもお粗末だ。そんなのと拮抗している自分も大概だが。)

 アンドロイドが思考を巡らせる中、辰巳が一度、銃を引く。

「あったんない……!」

「素人の割りにはよくやった方だよ。武器を狙おうっていう発想もいい。あんまりにもあからさま過ぎたけどね。」

「うるさい!」

「でも、そろそろ終わりにしようか?」

 続けざまに、アンドロイドが弾を撃ち込む。辰巳は、銃を片手にギリギリのところで避ける。

「動きが鈍いよ。疲れてきた?」

「冗談!!」

 光の飛び回る中、もう一度彼女が狙いを定めた。アンドロイドもそれを見て、狙撃をやめて身構える。

 しかし、引き金が引かれるその一瞬、その刹那に、銃口がアンドロイドの方を外れる。彼女が銃を向けたのは、彼女から見て左に大きくそれた方。予想もしないことに、思わずアンドロイドも首をそちらに向ける。

 彼が銃口から注意をそらしたその瞬間、彼女の銃口から今までとは比べ物にならない威力の光弾が撃ち出される。そしてそれは、銃口の直線上を行かずに、大きく曲がり、彼の左肩を撃ち抜いた。関節部がバチバチと音を立てる。ついに彼も膝をつく。

「威力違いの……追尾弾……!……やられたよ。」

「あ……嘘……。」

 辰巳がわずかに後ずさりする。体は小刻みに震えている。

「でも、万策尽きたみたいだね。」

 アンドロイドが立ち上がり、辰巳の方に一歩踏み出す。辰巳の体がびくりと跳ねる。

「ここまでやったことは褒めてあげるよ。」

「あ……あ……!」

「ご褒美に、至近距離で楽にしてあげる。」

「いやぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 辰巳は叫ぶと、銃を投げ捨て走り出し、屋上から飛び降りた。

「あらら……ずいぶん情けない。」

 彼は、屋上の柵に寄りかかり、下を見下ろす。

 その目が、壁にしがみつく至近距離の彼女と合った。

 あっけに取られる。処理が遅れる。

 そのときを狙って、彼女は勢いよく窓の縁を蹴る。その体は軽く彼の頭を飛び越える。片手の剣を両手にしっかりと握り締める。

 その姿を追おうと振り向くそのとき、彼の左肩に、思い切り剣が振り下ろされる。

 切り落とされた腕が、激しい音を立てて床に落ちた。

(右肩狙ったのはフェイク、外したように見せたのも、逃げたのも演技!!このために……!)

 目に入るのは、床に転がる自分の腕と剣。そして、銃を向ける彼女。狙うは……。

(剥き出しになった腕の切断面から、エネルギーエンジンを狙うために!!)

 先ほどと同威力の弾丸が、彼の体を貫く。わずかに遅れて、爆発が起こる。半壊した体が崩れ落ちた。

 辺りが静まり返る。

 辰巳がへなへなとその場に座り込む。

「勝った……なんとか……。」

「辰巳さーん!」

 声の方を見ると、愛海香が横になりながら、陰から顔を覗かせている。

「今行きますー。」

 辰巳は膝立ちのままズリズリとそちらに向かう。

「勝ちましたよー。なんとか。」

「すごかったですよ!初めてであれだけスーツや武器を使いこなしたのもさながら、あんな作戦考えるなんて!!」

「いやぁ……。」

 辰巳が照れながら言う。

「一番狙い易いところが頑丈なら、回りくどくても、撃ち込み易い脆いところを作ったほうが上手くいくかなって……。機械の関節部分ってどうしても弱くなりがちですし。あとは、狙いがバレないようにわざと右肩ばっかり狙って、外したフリして左肩に大ダメージ。油断させてから、一気に攻撃しました。」

「照準補助利用しての軌道の曲げ方なんか、どうして考えつくんですか!しかも、チャージまで使いこなしちゃうなんて!」

「見てると、よく狙ったとこに飛んでいくみたいだから、1回大幅にずらしても照準はそのままかなって思ったので……。チャージは、ボタンが一つしかなかったので、これだな、って。」

「辰巳さん、絶対センスありますよ!何か武道の経験とかあるんですか?」

「いや、そんな……。」

(マンガでやってたこと参考にしてやったとかいったら、怒られるかなこれ……。)

 辰巳が、ふと思い出して言う。

「そういえば、武器戻すときってどうするんですか?おかげで投げっぱなしですよ。スーツもそろそろ脱ぎたいんですけど……。」

「あ、そうでしたね。『返還、○○』って言えば、手元を離れていても戻せますよ。スーツの方は、『レッドスーツ、解除』です。」

 辰巳がコマンドを言うと、武器も消え、元の姿に戻る。

「はぁ、まさか男の姿になるとは思いませんでした。」

「姿が変わると、びっくりしますよね。」

「もう、びっくりなんてもんじゃなかったですけど……。」

 突然、ピピ、ピピと音がした。見ると、愛海香の転送装置が光っている。

「はい、もしもし。」

[愛海香ちゃん、大丈夫かい!?]

 男の人の焦った声が聞こえる。

「はい、ケガはしてますけど、アンドロイドは倒しました。助けてくれた人のおかげで。」

[助けてくれた人って……まさか転送装置を渡したの!?]

「死ぬところだったんですよ!仕方ないじゃないですか!」

[まあ、そのことはいいとしておくよ……。今どこ?]

「ビルの屋上です。助けてくれた人も、アンドロイドの残骸もここです。」

[わかった。今からそっちに向かうよ。]

 ピ、という音を立てて、通信が切れる。

「今の、誰ですか?」

「今侵略宣言されてる上の人と、こういうスーツの開発部の間を取り持ってくれてる人です。佐々美有郎(ささみアロウ)さんって言います。」

 そう答えた愛海香が転送装置を口元にかざす。

「ピンクスーツ、解除。」

 愛海香の変身が解けていく。その様子を見ながら、辰巳の表情がみるみる変わる。すっかり元の姿に戻る頃には、唖然とした情けない表情をしていた。

 そこにいたのは、丁寧に揃えられた長い綺麗な黒髪をした、年端もいかぬ少女だったのだから。

「愛海香……さん?」

「さん付けも敬語もやめて大丈夫です。あたし、こんなにちっこい子供なんですから。」

 そう言って、いたずらっぽく笑う。口から漏れるのは、先ほどとは打って変わって子供らしい声。

「な、何歳?」

「今11歳で、誕生日来たら12歳になります。」

「小学生?!なんでその歳でこんなことしてるの!?」

「いろいろ、あるんですよ。」

「いろいろって……。」

「……ところで辰巳さん。」

「何?」

「今日みたいに、ヒーロー続けてみるつもりはありませんか?」

「ええ?!」

「辰巳さんみたいに才能ある人が入ってくれたら、本当に助かります!お願いできませんか?」

「いや、急に言われても……。」

「普段生活に支障が出ないように配慮しますし、お給料も多めに出してくれますよ!」

「でも……。」

「住むところだって、大奮発しちゃいます!」

「えっと……。」

 辰巳が言いよどんでいると、愛海香がハッとする。

「で、ですよね!急に言われても困りますよね。忘れて下さい!」

 そう言って、視線をキョロキョロと泳がし、やがて静かに目を伏せる。辰巳には、その顔がとてもさみしそうに見えた。

(まだ子供なのに、愛海香ちゃんはあんな激しい戦いの中で懸命に、必死に戦ってた。しかも、一人で。うちが今からアパート戻って、普通に生活して、安全なとこにいるときにも、この子はずっと一人で戦い続けるのかな。でも、こんなことずっとやれる自信なんてないし、もっとちゃんとした機関が面倒見てくれるだろうし……。)

 しばらく体をゆらゆらとさせながら考えていた辰巳だが、しばらくして、小さく言う。

「他に、別の人入ってくれる予定、ある?」

「今すぐには、ないです。」

「今、愛海香ちゃんだけ?」

「特殊スーツ着て戦ってるのは。」

「そっか……。」

 辰巳が深い溜息をついて、言う。

「やる!」

「え?」

「うちがヒーローやる!」

「ホントに……?ホントですか!?」

「ホントにホント!」

 愛海香に向かってビシッと指を差す。

「ただし!うちよりふさわしい人が入って、人数が増える、そのときまでだからね!」

「それでも構いません!ホントに嬉しいです!」

 無邪気に喜ぶその様子を見て、辰巳にも笑みがこぼれる。

「アロウさんにも、報告しますね!」

「うん。あ、そうだ。」

「どうかしました?」

 辰巳がちらちらと目配せをし、もじもじとしながら言う。

「スーツを女性用のに変えてもらったりとか、できる?」

「補助性能いいのはさっきも言いましたけど……。実は……今、登録の解除法がわからないし、スーツの数にも限りがあるので、重複登録するわけにもいかなくて、原則変更不可です。」

「そーですかー……。」

(そんなことだろうと思いましたよー!)

 小学生の女の子と、男の姿で一緒にヒーロー……。とんでもない一歩を踏み出してしまったなあ、と辰巳はまた溜息をついた。





         ……そんなこんなで、こうしてうちは、本日より地球を守ることになりました。

                    というか、なってしまいましたっ!

 


 

 書きたいところまで書いたら、予想以上に長くなりました。読みづらくてすみません。

 ゆっくりですが、着々と書いていきます。

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