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16話 本当に厄介だ

 1限目の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。


 俺はすぐに席を立った。だって相変わらず男子連中が殺気立ってるし。


 ちらっと舞岡の方へ目を向けると、彼女は後ろの席の女子に声を掛けられ、談笑し始めた。どうせ今旬である俺との恋愛話などで盛り上がるのだろう。


 俺が男子たちに殺意を向けられているというのに、あいつは女子と仲良くお喋りだなんて良い気なものだ。


 案の定、通りすがりに、「昨日の放課後は2人で居たの?」という女子の声が聞こえてきた。関わりたくないし聞きたくない。


 とりあえずトイレへ逃げ込んだが、用を足した後はやることがない。


 仕方ない。教室へ戻ろう。たかが授業間の小休憩だ。行けるところは少ない。


 入り口の引き戸が開いていたので、そのまま教室へ入る。


 そのときだ。廊下へ出ようとしていた舞岡と鉢合わせた。


 彼女は背後の女子に「また後でね!」と手を振りながら接近してきており、俺に気付いていない。


「へっ!?」

「おっと」


 避ける間もなく、舞岡が俺の胸に飛び込んできた。


 俺は咄嗟に彼女の両肩を掴み、その体を受け止める。


「……っ! ……きゃああぁっ……!」


 えっ……


 舞岡は俺に気付くと、顔を蒼白させて後ずさった。まるで化け物にでも遭遇したかのようだ。


 ……ちょっとぶつかったくらいで大袈裟過ぎないだろうか。


 彼女は怯えたような目を俺に向け、肩を震わせている。


「えーっと……舞岡さん、大丈夫?」


 彼女に一歩歩み寄る。


「──っ……」


 舞岡は目に涙を浮かべ、その場にへたり込んだ。


「ごめんなさいっ……私が悪かったから……! どうか、キ、キスだけで……許してっ……」

「……え?」


 ちょっと待って。どういうこと?


 両手で目を擦り、「ふえぇん……」と泣き出す舞岡。


 俺はそんな彼女を唖然となって見下ろし、立ちつくす。


 周囲が騒めき始める。


 彼女が怯えている原因を考えるが、昨日の電話しかない。俺としたことが、大人気なく怒りをぶつけてしまったからな。


 問題は彼女の発言内容だ。キスだけって……


 あ、そう言えば、電話の最後に捨て台詞を吐いた気がする。何て言ったんだっけ。


 確か────


『両想いの恋人を演じてやる。その上で合法的にえっちなことをしてやるからな!』


 ……ヤバいな。悔し紛れにとんでもない脅かし方をしてしまっている。


 だけど、まさかそれを真に受けて朝から怯えていたのか? 俺が近付いたから泣き出したのか?


 嘘だろ?


 あんな風に脅かしておいてなんだが、両想いの恋人を演じたからって、教室で何が出来るって言うんだ? 普通に考えて、みんなのいる前で何かするわけないだろ。


 そもそも電話の後、姉さんと過ごしていた頃には頭も冷えていたし、寝る頃にはすっかり忘れていた。


 だから怒鳴ったことを謝ってもいないのは俺が悪いが……


 彼女は俺の言葉を鵜呑みにしたのか、この有り様だ。ほんと単純というか馬鹿というか素直というか……そんなレベルじゃない気もするが。


 とにかく彼女がこの調子だとさすがに学校生活が良くない。教室内が物凄く騒ついてるし。


 苦しいかもしれないが、あれは冗談だったと伝えておこう。


「なあ、舞岡さん」

「ひぐっ……わ、わかった……わかったから……! 胸とか触るんでしょ……? だったらせめて2人のときにしてよ……」

「……」


 駄目だこいつ。早く何とかしないと。


「……なあ舞岡さん、ちょっとお話が」

「ぐすっ……わかってる……でも妊娠したら困るし……高校は卒業したいし……うぅ……」

「……」


 ねえ、ほんとに何言ってんの? 何がわかってるの? 教室内がめちゃくちゃ騒ついてるんですけど。みんなが信じられないものをみるような目でこっちを見てるからマジで不穏なことを言うのやめてくんないかな。危険ワード出まくってるから。殺気とか軽蔑の視線とかやばいから。


「(えっ、やばくない? 何か妊娠とか言ってるんだけど……)」

「(マジ……? 昨日の今日で……?)」

「(三島君て意外と手が早いんだ……)」

「(てか舞岡さん泣いちゃってるじゃん……もしかして無理矢理されたんじゃ……しかも中に……)」

「(三島の野郎……マジで舞岡さんとやっちゃったのか……?)」

「(後で校舎裏に呼び出そう。シメてやる!)」

「(絶対ぶん殴る!)」

「(呪い殺す!)」


 ぴえん……怖いよぉ。


 俺は本当に今日死ぬかもしれない。泣きそうなのはこっちだ。呪いの奴が1番怖いな……


 とにかく舞岡から離れよう。精神状態がヤバ過ぎる。まだ泣いてるし、今は何を言っても状況が悪化しそうだ。


「いやー……何のことだろ……はは……」


 俺はみんなへぎこちない笑顔を向けながら、その場を離れる。


 そそくさと窓際へ行き、自分の席に腰を下ろす。


 クラスメイトたちが騒つく中、舞岡はぐすんと涙を拭い、逃げるように教室を出ていった。何でだよ……


 本当に厄介だ。何であいつはやることなすこと俺を追い込む方向へ進むんだ? 昨日までは猫を被って平穏な高校生活を送っていたはずなのに、たった1日で台無しだ。


 まあ俺が電話で怒りをぶつけて脅かしたせいでもあるが……元はと言えばあいつが嘘告白なんかするからだ。


 大体あいつも真に受け過ぎだ。馬鹿だからすぐ本気にするんだ。


 教室内はまだ騒ついている。みんなの視線が痛過ぎる。女子たちはいつもより距離を感じるし……


 はあ……何で俺がこんな目に……

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