4話 入学式
今日は卒業式。中学三年間はあっという間だった。楽しい毎日の繰り返しで本当に三年も経ってしまったのか疑ってしまうほどに早かった。でも、後悔や悲しみはない。何故なら、いつメンと光正に入学できるため中学の延長線上のような感覚だからだ。
「おはよ。ようやく卒業だな」
いつも通り勝の家の前で集合して学校に向かう。光正に入学してからもこのルーティーンは変わらないだろう。
「おはよ。俺はようやくって言うよりもうって感じだな」
「そうか? 俺は結構長く感じたけど」
「僕は健ちゃんと同じだね」
「私もー」
透と春奈もあっという間に感じているらしく、いつメンの中でも時間の感じ方にはかなりの違いがあるようだ。俺はもしかして勝が中学を楽しく過ごせなかったのではないかと心配になります聞いた。
「勝は中学楽しくなかったのか?」
「いやいやそんなことないぞ。どっかって言ったら楽しかったさ。でも、俺はそれより早く攻略者になりたかったからもどかしく感じてたんだ。みんなといる時間はもちろん楽しかったぞ」
俺は自分の心配が杞憂に終わって良かったと胸を撫で下ろした。俺たちが学校に着くと卒業式の準備で慌しかった。先生はスーツを着て、俺たちは制服を正しく着る。そして、胸に卒業生を表すコサージュが渡された。俺たちは互いのいつもと違う格好に笑い合った。しばらくしたら卒業式が始まった。厳かな雰囲気で執り行われた卒業式は無事終わった。
「終わったー」
「ね、みんなで写真撮ろうよ!」
春奈の言葉に俺たちはスマホの画角内に収まるようにくっついた。俺たちは満面の笑みで自撮りをした。
「後で写真送っとくね!」
そう言うと春奈はクラスのみんなと写真を撮った。俺たちのクラスから光正に入る人はいないのでこれが最後になる人もいるかもしれない。そう思うとみんなとの思い出を写真に残したいと思ったのだろう。俺たちもそこそこ仲が良かったクラスメイトと最後に話しておいた。当たり障りのない会話で中身はあまり無かったが、互いに高校でも頑張れといった会話をした。
「あー楽しかった! もう思い残すことはないね!」
春奈の言葉に俺たちも同意見だった。中学は新しい出会いと別れを学べ、次なるステップへと一歩を踏み出す大切な時期。そんな中学で思い残すことがないのはこの三年間を自分のものにできたことの何よりの証明だろう。
「もう帰る?」
俺はみんなに問うた。
「「「帰ろっか」」」
みんな満足げな顔で言った。みんな本当に思い残すことはないんだなと思った。中学生活最後の帰り道。俺たちは中学三年間の思い出を語りながらゆっくりと帰った。一年生から三年生までの色んな出来事を振り返ってあんな事があったと笑い合い、そんな事もあったなと思い出に浸った。楽しい思い出話に花を咲かせていると時間はあっという間に過ぎ、もう勝の家まで着いた。ここで話を途切れさせるのは歯切れが悪いとなり、俺たちは勝の家に上がり思い出が出尽くすまで語り合った。俺たちは修学旅行で夜な夜な恋愛話をする生徒の如く話し尽くしいつの間にか寝落ちしてしまっていた。そんな俺たちを勝のお母さんが起こしに来て晩ご飯をご馳走になった。俺たちは心ゆくまで中学の話をして本当に思い残すことは無くなった。
「「「ご馳走様でした!」」」
俺たちは勝の家を後にした。父さんと母さんにもみんなとこんな時間まで話し合ったことを伝えた。父さんと母さんは微笑み良かったねと幸せそうな顔をしていた。
中学を卒業してから光正に入学するまではあっという間だった。入学するまでに必要な物や制服等を用意しているとすぐに入学式が始まろうとしていた。
「なんか全然休めなかったねー」
「そうだな。毎日何かしらの用事があったからバタバタしてたな」
入学式当日、俺たちはいつも通りだった。勝も透もうんうんと共感してくれた。光正が攻略者となるための高校だから普通科よりも用意する物が多いのは分かっていたが、戦闘用の実戦服や安全装備など本当に様々な物を用意を用意しなくてはならなかったのだ。そのため俺たちは学校指定の様々な店に行きそれらの物の採寸を行い買うという面倒なことをやらされたのだ。
「必要な物買ってたらいつの間にか入学式になっちまったよ」
勝の言葉にみんな頷いた。俺たちは式が始まる前の時間に話し合っていると、壇上に鷲田先生が登った。俺たちは式が始まるのだと思い静かにした。
「皆様ご入学おめでとうございます。貴方達一年生の学年主任を担当する鷲田敏夫です。最初は右も左も分からない状態ですので、気になることや分からないことは何でも遠慮せずに先生や先輩に聞くようにしてください。もし、高校生になったからすぐにダンジョンに行けると思っている人がいるのであれば、それは間違いです。法律上高校生からダンジョンに挑戦する事が許されているのであって、高校側がそれを承認しない事にはダンジョンに足を踏み入れることすら許されません。授業でダンジョンに挑戦しますので一切ダンジョンに足を踏み入れないということはないので安心してください。それと、私が貴方達の授業を担当するのは実戦系のみですのでその時はよろしくお願いします。細かい話はクラスで説明されますのでその時に質問してください」
鷲田先生の話が終わった。入試の時と口調が違い過ぎて本当に同一人物なのか疑うほどだった。おそらくこのようなフォーマルな場であるのと他の先生方もいるからだろう。先生方が普通にしているのは慣れているからだろう。鷲田先生が壇上から降りると六十代ほどの初老の教頭先生か校長先生らしき人が壇上に上がった。
「みなさん入学おめでとう。先ほど鷲田先生も仰っていたが、ダンジョンに挑戦するのは基本二年生以降となる。だが、先生がダンジョンについて来てくれるのなら一年生でもダンジョンに挑戦するのは可能だ。でも、今まで一年生でダンジョンに挑戦するようなアグレッシブな生徒はほんの僅かしかいない。こちらとしてもその方が良いが、アグレッシブな生徒も私は好ましく思う。もし、ダンジョンに挑戦したい生徒がいたら遠慮なく申請して欲しい。でも、慢心から来る油断をするような生徒は二度とダンジョンに挑戦させないつもりでいる。ダンジョンとは常に死と隣り合わせの危険な場所であることを念頭に置くように」
先生の言葉に俺は背筋が伸びていた。おそらく先生ほど人生経験が豊富な人だとダンジョンで亡くなった生徒を何人も見て来たのだろう。高校生は経験がほとんどないからダンジョンの恐ろしさを正しく理解しておらず、悲惨な事故が何度もあったと推測できる。その点、俺たちは入試で重傷を負った生徒を見ているのでダンジョンの恐ろしさを正しく理解できている。だから、下手にダンジョンに挑戦するなんていうことはしない。そんなことを思っていると、ふと思い出した事がある。それは栄誉のダンジョンだ。何でこんな時にダンジョンのことを思い出してしまうのかと思っていると、勝が小声で話しかけて来た。
「なぁ、鷲田先生ならダンジョン一緒に行ってくれそうじゃね?」
「はぁ? 流石に入学したての俺たちをダンジョンに連れて行ってくれるわけないだろ」
「もしかしたらって事もあるじゃん」
「ないない」
そんな話をしていると壇上に俺たちと同じ新入生が立っていた。その新入生はスラッとしており中性的な顔立ちをしていた。髪色は日本人と思えない金髪で短く切り揃えられていた。外国人なのかな、などと思っていると新入生が話し始めた。
「新入生代表のユース・ヨハネスです。光正大学附属高等学校という由緒正しい学校に入学できて本当に光栄です。私が本校に入学した理由はみなさんと同じく攻略者になるためです。私の両親も攻略者として有名になったように私も両親に恥ない攻略者になろうと考えています」
両親が有名と言われても俺は攻略者に興味がないためへーとあまり真剣に考えなかった。でも、あの新入生が誰か気になったので俺は勝に聞こうとしたら、勝は驚きからか口が少し開いていた。俺は勝の肩をつつきながら聞いた。
「ど、どうしたんだ?」
「いや、まさかあんな有名人が同級生になるなんて思ってなかったからビビって……」
「あの人有名なのか?」
俺はあの新入生の名前を聞いた事がなく勝に聞いた。すると、勝は隣にいた透と春奈に俺が新入生の名前を聞いた事がないことを伝えた。すると、二人は目を見開いて驚いていた。俺は二人が何でそんな反応をするのか気になり説明を催促した。
「どういう事なんだ?」
「お前、攻略者目指すならヨハネスの名前は知っておけよ。アイツの父親はトール・ヨハネスって言って、神話級アイテムを持ってて、攻略者チャート常に最上位のバケモノなんだぞ。母親はメアリー・ヨハネスで、そっちも攻略者チャート上位のヨハネス夫婦だよ。その子どもがあのユース・ヨハネスだ。どう考えても俺たちとはレベルが違う存在なんだよ」
攻略者について詳しくない俺でも神話級アイテムがどれだけヤバいかは理解していたため心底驚いた。ユースの新入生代表挨拶が終わってしばらく経ったのにずっとザワザワしているのが有名な証拠だろう。
「これで入学式は終わりますので各クラスに移動してください」
俺たちいつメンは幸いな事に同じクラスだったためクラスに行くまでヨハネス夫婦について聞く事にした。
「ヨハネス夫婦ってどれぐらい凄いんだ?」
「僕が教えてあげよう。まずは雷神トールと呼ばれるトール・ヨハネスから。彼が持ってる神話級アイテムは神話通りミョルニルなんだ。名前も同じだから雷神トールの生まれ変わりだって言われてるんだ。しかも、強さも雷神トールさながらでトールが挑戦したダンジョンは完全攻略なんだ。完全攻略って言うのは文字通り完全に攻略を終えた時にだけ言われるんだ。それがどれだけ難しいかは言わなくても分かるよね?」
俺は頷いた。
「次はメアリー・ヨハネスだね。彼女のメインはヒーラーなんだけど、他の攻略者のサポートからバフ、デバフまでアタッカー以外は全てできるって言われているんだ。だから、ヨハネス夫婦だけでも大抵のダンジョンは攻略可能だって言われてるぐらいパートナーとして最強なんだ」
まさかそんなに強いとは思っておらず感嘆した。だから、ヨハネス夫婦の子どもであるユースも有名なんだろう。でも、その分世間からの期待はとてつもない重圧になっているだろうなと思った。話を聞いているといつの間にか教室まで来ており俺たちは指定された席に着いた。名簿順だったため勝と春奈は近いが俺と透は少し離れた席だった。仕方ないかと思っていると、廊下がやけに騒がしくなった。俺はユースだろうなと思い廊下を見ると案の定その通りだった。ユースは何組なんだろうなと思っていると、ユースが俺たちの教室に入って来た。クラスの女子たちは歓喜の悲鳴を上げ、男たちはその悲鳴から鼓膜を守るために耳を塞いだ。
「うるさいぞー!」
教室に入って来た男の先生が言った。この人が俺たちの担任の先生なのだろう。その先生は筋骨隆々で髪はベリーショート、身長はかなり高く、腕や顔に所々に傷跡がある。見るからに強そうで怖そうな先生に少しクラスはシーンとした。ユースが自分の席に座りクラスみんな席に着くと先生が話し始めた。
「俺はこのクラスの担任となった塩田真斗だ。見てわかると思うが、鷲田先生同様俺も実戦系の担当だ。お前たち攻略科は八割実戦系の二割座学だ。と言っても、お前たちはまだ産まれたてのヒヨコと同じだ。一年からハイレベルなことはしないし、求めない。だから、焦らずゆっくり成長することを目標に日々を過ごすように。でも、ゆっくり過ぎたら取り返しのつかない事になるから授業が少し楽に思える程度に鍛錬して勉強するように。授業内容ついて聞きたい事がある者は?」
誰も手を挙げないのを確認した塩田先生が続けた。
「それじゃあ今日はこれで終わりだ。先輩たちが部活をしているだろうから見たい者は好きにして良いぞ。帰りたい者は帰って良し。以上」
俺たちはどうしようか話し合った。結果としてちょっとだけ部活を見て帰る事にした。普通科とは違い攻略科である攻略校は普通の部活もあるが、ほとんどの部活は攻略科特有の物だ。近接戦闘を行う部活やアイテムを用いた戦いをしている部活など様々だった。俺たちが入るのはまだまだ先だろうが、部活に入れば良い経験になるだろうなと思った。俺たちは一通り部活を見ると満足して帰路についた。これから先の高校生活が楽しみで仕方がない。
ゆっくりお待ちください




