17話 稽古
「まず治癒魔法がどんなものか説明してやる。治癒魔法はマナを用いて傷口を塞ぎ、傷口の自然治癒を促進させる魔法だ。と言っても、治癒魔法はそんなに便利なもんじゃねぇ。傷口を塞ぐって言っても痛みはあるし、自然治癒を促進させるだけの魔法だ。悪化はしないがたちまち傷が完治するなんて夢のような魔法じゃねぇ事は覚えておけ。だが、俺様は違う。俺様は治癒魔法以外にマナを一切使わない。治癒魔法にありったけのマナを集中させれる。だから、他の魔法使い共とは圧倒的に継戦能力が違うんだ。
お前みたいな魔法も使える戦士は何度も戦ってきたが、そいつらは優柔不断な戦い方をして俺様に負けてきた。だから、お前にはそんな奴らに負けないような強い奴に育ててやる。覚悟しろよ」
「……はい!」
まず俺は治癒魔法を覚えさせられた。小さなナイフを与えられそれで傷をつけ治癒魔法で治すという地獄のような作業を延々とやらされ続けた。小さな傷だが、痛いものは痛く手が止まったりすると、大男は怒号を浴びせてきた。
「何手ぇ止めてんだ! これはお前が強くなるための稽古なんだぞ! 逃げ出したきゃ逃げりゃいい! だがな、一度逃げ出したら最後。もう二度とお前に稽古つけてやらん!」
この人は俺のために稽古をつけてくれているのだと分かった。俺は再び手を動かした。痛みでマナを集中させるのに苦労していると大男が言った。
「痛みは慣れる他ない。だが、マナを集中させる方法は他にもある。傷口を想像すると痛むだろうから右手にマナを集めて、右手で傷口を塞ぐように当てろ。そうすれば傷口にマナを集めなくて済む。それに、傷を気にして手を当ててるだけに見えるから不意打ちっぽくもなる。一石二鳥だ」
この人はとことん脳筋なんだと思ったが、傷口にマナを集めるよりは右手に集める方が簡単なため試してみた。右手にマナを集め、傷口を右手で覆う。ただそれだけ。でも、効果は確かだった。傷口は塞がり見た目的には完治しているように見えた。とは言え痛みは残っていたが、マナで塞ぐ方が全然マシだった。
「お、できたな。それじゃあ傷が完璧に治るまで俺様の話をしてやろう。耳の穴かっぽじって聞けよ。
俺様は武帝と呼ばれある者からは尊敬されある者からは疎まれていた。だが、俺様はそんな事は気にしない。誰から何と思われようが、俺様は俺様だ。誰にも変えられぬ唯一の存在だ。そんな俺様は武帝として世界に存在を示していた。アイテムの腕で武帝に並ぶ者はいないと言わしめるほどだった。だが、そんな俺様も老いには勝てなかった。いつしか世間は俺様を落魄れたと言い、民衆もそれを信じるようになった。実際全盛期よりは弱くなったが、それでも俺様は周りにいる誰より強かった。だが、俺様に取って代わる奴が現れた。世代交代というやつだ。俺様はもう自分の時代は終わったのだと悟り一人山奥で生涯を終えた。
今ここに俺様がいるのは武帝として名を馳せたが、今や俺様の事を覚えている奴がいなくなったからだろう。俺様の話はこれぐらいだ。後悔があるとすれば天涯孤独だった事ぐらいだな。だから、今こうしてお前に俺様の技術を教えているのが楽しくて仕方ない。すまないな。こんな俺様に付き合わせちまって」
武帝と呼ばれるほど強かったはずなのに今では忘れられここにいる。親族もおらず死んでもなお孤独だった事を思うと俺は居ても立っても居られない気持ちになり、武帝の手を取り言った。
「もう治りました。俺に稽古つけてください!」
「よぉーし! それでこそ俺様の弟子だ! ビシバシ行くから覚悟しろよ」
「はい!」
そこから俺は武帝による本気の扱きを受けることになった。稽古だからと言って木剣などを使ったりはせず自慢の超特大剣を振り回した。俺は死の恐怖から逃げ回った。
「おい! 逃げるな!」
「無理です! 死んじゃいますよ!」
「実戦でそんな泣き言が通用すると思ってるのか!?」
武帝のあまりに無慈悲な言葉に俺はさらに逃げ惑った。ただの高校生に死の恐怖を前に立ち向かうなんて事出来るわけがない。そう思っていると、武帝は攻撃の手を止めて言った。
「健斗! 強くなりたくないのか!?」
「強くなりたいです! ……でも」
俺は武帝の顔を見つめる事が出来なくなり俯いた。すると、武帝は両肩に手を置き言った。
「俺様だって初めはお前と同じだった。死が怖くて実戦で逃げ出す事もあった。だが、ある時気がついたんだ。弱き日の俺が逃げた事で仲間が何人も死んだことに……その仲間は俺が逃げた死の恐怖を感じながら死んだのだ。それを理解してから俺は変わった。たとえどんな強敵であろうとも逃げない。投げ出さない。見捨てない。これを心に決め、いつしか武帝と崇められた。俺様は自分のために強くなれたのではない。仲間のために強くなれたのだ。お前も仲間の事を思い強くなれ! そして、いつしか俺様を超える実力者となれ!」
「はい!」
俺は目の前の死の恐怖を完全に克服したわけではないが、話を聞いてかなりマシになった。死ぬ怖さよりも俺が逃げる事で勝たちを死なせてしまう怖さ、死なせたくないと思う気持ちの方が強いのだ。武帝の超特大剣をまともに受ける事はまず無理なので初めは避ける事に専念した。俺は笑みの寵愛が常に発動するように笑みを絶やさなかった。すると、武帝が嬉しそうに笑いながら言った。
「こんなに楽しそうに俺の攻撃を避ける奴は初めてだぞ健斗!」
「そうでしょうね!」
俺は必死で武帝の攻撃を避けた。武帝は確実に俺のレベルに合わせて剣の振るスピードを調節してくれており何とかギリギリで避けられている。最初のうちはぎこちなく避けていたが、徐々に避けるのにも慣れてきた。笑みの寵愛の効果で成長スピードが速くなってるのかも知れないが、確実に自分のものにできているため先ほどまでの無理やりの笑みから避けられる嬉しさの笑みに変わった。
「よし! 避ける稽古はひとまず終了。次は俺がお前の攻撃を全て受けきってやるから、腕がちぎれそうになるまで攻撃を続けろ」
「はい!」
忘れられた記憶の断片では体力の消耗がない事を良い事に武帝は休ませる暇を与えず次の稽古の指示を出した。俺は武帝に対して氷刃剣で猛攻を浴びせた。だが、武帝は俺の攻撃に対してあくびをした。そして、あくびをしながら目を瞑っている最中も完璧にガードしている。俺はその様子に腹が立った。俺は逆に猛攻を一瞬弱めて今までと違う太刀筋を浴びせた。でも、武帝にはそれもお見通しなようで完璧にガードされた。それでも俺は必死に攻撃をし続けた。腕がちぎれそうになったら反対の手にマナを集めて治癒魔法を施し、逆も同じようにして絶えず攻撃を続けた。すると、武帝が攻撃を止めるように言った。俺は攻撃を止め話を聞いた。
「今回でお前の腕前はかなり上達した。だが、正直言ってまだまだだ。お前はまだ若いし時間も山ほどある。だから、他にも学びたい事を学べ。そして強くなれ。お前が一段と強くなった時、俺様は再びお前に稽古をつけてやる。一つのことに集中して視野を狭めるのは得策とは言えないからな。お前には俺のようになるのではなく様々なことを出来る人材になってほしいと考える。だから、頑張れよ期待してるからな」
「はい! ありがとうございました! 強くなってまた帰ってきます! キール」
俺は現実世界に戻った。肉体的な疲労はないが精神的な疲労ですぐに床についた。
ゆっくりお待ちください




