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忘れられた記憶の断片から力を得れる俺は小出しで成り上がる  作者: 描空


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16話 選抜戦に向けて

 光正に入学して一ヶ月が過ぎた。授業にも部活にも慣れてクラスのみんなともそこそこ仲良くなれた。でも、ユースさんは未だ誰とも友達になろうとすらしない。誰が話しかけても無視されたり断られたりと一人を貫いていた。最初の方は仲良くなろうと話しかけていたが、次第にみんな話しかけなくなった。そんな時、塩田先生の口から選抜戦の話が語られた。


「今日からちょうど一ヶ月後に光正選抜戦という学年ごとで行われるトーナメント戦がある。これは全員参加ではなく希望者のみ参加することができる。一年生のお前らは実戦の機会があまりに少ない。だから、参加を避ける傾向にある。だがな、ハッキリ言って愚策という他ない。今のうちに選抜戦に参加して実戦がどのようなものか理解する姿勢が重要だ。攻略者となる場合、時には同じ攻略者を相手にしなければならない場合も出てくる。そんな時のために選抜戦には毎年参加してもらいたい。強制はしないが、トップ10にはアイテムが贈呈されるから参加し得ではあるぞ。それでも嫌ならお前らの攻略者になりたい気持ちがまだまだってことになるな。

 エントリー期間は後二週間。じっくり考え過ぎて参加用紙の提出忘れだけはしないように。参加するやつは俺に提出するように。以上」


 塩田先生が参加用紙を教室の配布物を入れておくカゴに入れて教室を後にした。俺を含めいつメンは躊躇することなく参加用紙を取りに向かった。すると、ユースさんも同じく参加用紙を取りに来ていた。ユースさんほどの実力者なら優勝は堅いだろうし、参加しない理由なんてないのだろう。それに、自分が参加せず他の誰かにアイテムが渡ることを阻止する狙いもありそうだ。ユースさんに勝てなくてもトップ10入りするために今日から選抜戦に向けて弛まぬ努力をすることを決めた。


 まずはいつも通りの授業面だ。いつもは少し分からないところがあっても先生に聞いたりすることはなかったが、魔法やアイテムに関わることなら積極的に聞くことにした。早いうちから分からないことを無くすことが先決だと思ったのだ。そして、実戦系ではいつも七割ぐらいの意欲、熱意だったが、一時的に十割に増やすことでアイテムの使い方、マナを集中させるコツを身につける早さを向上させた。

 部活では、勝とばかりやっていたのを二年、三年の先輩たちと行うことで、負けて悔しい気持ちからどうやってそこまで強くなれたのかという尊敬の気持ちに変換した。休憩の時間に先輩たちから今までどんな事を意識的にやってきたのか、どんな筋トレをしているのか、アイテムを上手く使うコツを聞けるだけ全て聞いた。それをメモして普段の生活に取り込めるように意識した。筋トレも教えてもらったメニューを増やし、さらに自分を追い込んだ。


 そんな生活を続けて二週間が経った。参加用紙は塩田先生に当日中に出したため何も気にする事はない。いつもよりハードな日常なためまだキツイところはあるが、着実に自分が強くなっていってるのが分かる。二週間前は二年の先輩にすら手も足も出なかったのに、今では善戦できるようになっている。と言っても、一度も勝てていないのが現実だ。三年の先輩にはまだ手も足も出ない。金田先輩なんて触れることさえできない。どうすればもっと強くなれるのか考えている時忘れられた記憶の断片(アルカディアリベル)の事を思い出した。最近じいちゃんに会いに行ってなかったから会いに行くことにした。キールと唱え中に入ると、じいちゃんが三角座りをして寂しそうにしていた。


「じいちゃん久しぶり」


 俺がそう言うとじいちゃんは物凄い早さで俺のところに駆けつけた。そして、俺のことを力強く抱きしめた。


「じいちゃん、忘れられたかと思って……良かった忘れておらんかったんじゃな……」


「忘れないよ。最近忙しくてこっち来れなかっただけだよ」


「そうか。それより忙しいって何かあるのか?」


 俺はじいちゃんに選抜戦、授業、部活の事を全て話した。すると、じいちゃんは自信満々な顔で言った。


「じいちゃんの出番じゃな!」


「そうだね。今日もいっぱい魔法教えてもらおうかな」


「任せておけ」


 そこから俺とじいちゃんは猛特訓を行った。俺に時間が残されていないのを知ったじいちゃんは実戦形式で必要な事を全て教えてくれた。マナの操作性を上げるコツ、杖をブラフにして左手から不意打ちの魔法を撃つ方法、相手に近接戦に持ち込まれた時の対処法と事前の対策。実戦で必要とする事はほとんど教えてもらった。後は自分に最も合う魔法がどれなのか探すことだけになった。でも、これはゆっくり探して行くものらしくすぐには見つからないとのことだった。じいちゃんから色んなことを学べた俺は恵まれていると思った。ゆっくり休憩をしていた時じいちゃんが言った。


「そろそろ次の人に会うのも良いじゃろうから教えておくぞ」


 じいちゃんの急な発言に戸惑った。


「え、ん? ど、どういうこと?」


「ここ忘れられた記憶の断片(アルカディアリベル)は様々な時代の忘れられた者がおる。そして、その者たちと会うにはページをめくる必要がある。ここは本の中のような世界じゃからな。忘れられた記憶の断片(アルカディアリベル)も魔導書のような見た目をしておるじゃろ? だからじゃ。次のページにどんな人がいるのか想像もできないが、もしかしたらアイテムの事をよく知っておる人かも知れん。じゃから、次の人に会うためにコンベルタと唱えるんじゃ。もし、じいちゃんに会いに来たくなったらレディトスと唱えれば戻って来られる。タイミングは健ちゃんがゆっくり決めれば良い。焦る必要もない。覚悟が出来たら行きなさい」


「……じいちゃん」


 俺はじいちゃんに抱きついた。年相応とはかけ離れた肉体で俺の相手をしてくれた事、並外れた魔法の知識を俺に教えてくれた事、ここの事を教えてくれた恩、俺はじいちゃんに計り知れないほどの感謝の気持ちがあった。その感謝の気持ちを伝えるかのようにじいちゃんを力強く抱きしめた。しばらく抱きしめ満足しじいちゃんから手を離した。


「今までありがとうじいちゃん。また気が向いたら遊びに来るからね」


「あぁじいちゃんはいつまでも待っておるぞ」


「コンベルタ」


 そう唱えるとじいちゃんはいなくなっており、目の前には筋骨隆々で体には数えきれないほど傷跡がある大男がいた。俺はあまりの迫力に後退りをした。


「なんだお前?」


 外見に相応しい低音の声にさらに後退りしそうになったが、強くなるためにはこの人に教えを乞う必要があると感じた。この人の強さは見ただけで分かる。鍛え抜かれた筋肉、幾千もの死線を生き抜いた事を証明する傷跡、背に背負う超特大剣。この人になら近接戦闘の全てを教えてもらえる。そう確信した。


「俺は小出健斗と申します! あなたに近接戦闘の教えを乞いたく参上しました! どうかこのひ弱な存在にあなたの強さを教えていただきたく思います!」


 俺はなるべく震える声を虚勢で抑え込み目の前にいる圧倒的強者に失礼のないように精一杯の言葉を投げかけた。


「俺様に教えを乞いたいと言うのか」


「はい! その通りです!」


 すると、大男は俺と少し距離を取り言った。


「お前の力を俺に見せてみろ。お前に見込みを感じたら死ぬまで(しご)いてやる。もし、見込みを感じなかったら俺はお前を何度でも死の恐怖に陥れてやる。そして、死の恐怖を克服できたら教えてやる。これでもやるか?」


「はい!」


 俺は迷う事なく即答した。俺は氷刃剣を抜き今の思いと力のありったけを込めた。手に力が入り過ぎて痛くなるほど力を込めて握った。氷刃剣は俺の力と思いに応えるように辺り一帯を冷気で満たした。俺は大男に全速力で走り笑みを浮かべて氷刃剣を振り翳した。でも、俺の一太刀は大男の鎖骨に防がれ致命傷を与える事はできなかった。俺は全身の力が抜け崩れ落ちそうになった。でも、大男が俺の腕を掴み持ち上げた。


「お前今俺を殺そうとしたな」


 大男の目線は獲物を発見した獣の様だった。


「当たり前じゃないですか……目の前にいる敵を殺す覚悟すらないバカに戦う事なんて出来ませんから……」


 俺は力を振り絞り過ぎて一時的に脱力状態となっていた。


「ガハハ! 面白い。戦士はそうではなくてはな! たとえ勝てないと分かっていながらも逃げる事なく目の前の敵に一矢報いろうとする覚悟がなくてはな! よし。健斗とやら俺様の技術と経験の全てをお前に叩き込んでやる。根を上げても、身体中傷だらけになっても辞めん! 文字通り死ぬまで扱いてやる。覚悟しておくんだな!」


 その言葉を最後に俺は意識を失った。目を覚ますと大男が胡座をかいて待っていた。俺は即座に体を起こした。ふとその時、体の痛みがない事に気がついた。あれだけの力を使っていながら反動がないわけがないと不思議にしていると大男が言った。


「俺様が治しておいてやった。これで今すぐにでも稽古に移れるな」


 俺はその言葉にすぐに食い付いた。


「治癒魔法も使えるんですか!?」


「当たり前だ。戦士なら治癒魔法を覚え、戦いの中で自分治癒しながら戦うのが一番強いからな」


「それじゃあ俺にも治癒魔法を教えていただけるんですか?」


「当たり前だ。治癒魔法は最初に覚えてもらう。俺様との稽古の中で怪我をすることがあっても自分で治癒できるようになれば第一ステップ完了だ。早速教えるからちゃんと覚えろよ」


「はい! よろしくお願いします!」


 こうして俺と大男の稽古が始まった。

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