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3Aの壁と決勝前夜の約束


大阪の冬が終わりかけて、朝の風は少し暖かさを帯び始めた。関西青少年選抜決勝まであと一周間、関西アイスリンクの晨訓はいつにも増して激しい練習の雰囲気に包まれていた。


佐藤珏は氷面で3Aの助走を繰り返す。

スケートブレードが氷を切る「シャッ」という音が、周りの練習曲をかき消すほど鮮やか。

跳び上がった瞬間、体のバランスが少し崩れ——「ドン」と氷に倒れ込む。


「また転んでる?」


鹿島コーチが杖をついて近づき、氷上の珏を見下ろす。

「3Aは高度が足りない。お前の長所は回転スピードだ」

老人は杖で氷面に線を描く。

「高度を補うため、助走の最後のステップを『弾く』感じで踏め」


珏は雪を払いながら立ち上がる。

手心は擦れて少し痛むが、胸の星の徽章を撫でると、力が戻ってくる。

「弾く感じ……?」


「俺が昔練習した時、木製の踏み台を使った。」

鹿島の声が冷気に混ざる。

「助走の終わりに足を強く踏み込み、地面から弾み上がる感覚を覚えろ。お前の回転スピードがあれば、高度は補える」


「珏!一緒に練習しよう!」


寺岡隼人が滑り寄ってくる。

青い勝負ウェアの袖が汗で少し濡れているが、目は輝いている。

「俺も3Aが安定しないから、一緒に鹿島コーチのアドバイス試そう!」


珏は頷く。

二人は交互に助走をつけ、3Aに挑む。

寺岡は高度はあるが回転が遅く、珏は回転は速いが高度が足りず——それぞれ短所を補い合うように、練習を重ねる。


「おい、二人とも休憩!」


俊介おじさんがタオルとペットボトルを持ってきた。

「翔太が探しに来たよ。母さんの様子も聞いてきた」


冬の光がリンクに差し込んで、氷面がほんのりきらめいた。

氷场の入り口に、翔太が新しい絵を抱えて跳ね上がっている。

「兄ちゃん!これ!」

少年は絵を差し出す——上面には珏が3Aを成功させている姿、周りには「優勝!」「3A決まる!」と歪んだ字が書かれている。


「母さんに見せたら、きっと嬉しいよ」

翔太が珏の手を握る。

「おばあちゃんが言うと、母さんが昨日、兄ちゃんの名前を呼んだらしい!」


珏の心臓が「ドキッ」と跳ねた。

「……本当?」


「うん!父が電話で言った!」

翔太は満面の笑みで続ける。

「母さん、兄ちゃんの決勝を見たいって!」


「よかったな」

俊介が手をついて笑う。

「今日の練習はここまで?病院に寄って母さんに絵を渡そう」


その時、氷场のゲートから三人が入ってくる。

真ん中の少年は金髪のハイライトが入った髪をして、黒いトレーニングウェアを着ている。

見た目は珏たちと同年代だが、肩幅が広く、気品がある。


「あれは、関東の橘健太だよ」

俊介が小声で説明する。

「去年の全国少年大会で銀メダルを取った実力者。3Aは完璧に決めるし、スピンの表現力も高い」


橘健太は氷面を見渡し、珏と寺岡の方向に視線を落とす。

少し見下ろすような眼差しで、「そっちで練習?なら、ぶつからないよう気をつけてな」と言って、自分たちのコーナーに滑り去った。


寺岡が眉を寄せる。

「なんだあの人……傲岸だな」


「実力があるからな」

鹿島がそっと言う。

「だが、氷上では実力だけが全てじゃない。お前たちも、自分の長所を信じろ」


珏は胸の徽章を握り締める。

橘健太の技術は確かだが、彼には「守りたいもの」がある——母、翔太、そしてこの間支えてくれた人たち。

この決勝、必ず勝ちたい。


決勝の前日、大阪は薄晴れだった。

珏は選手控室でスケートの最終チェックをする。

俊介がフリープログラムの音楽を確認する——「君をのせて」のインストバージョン。

「この音楽、お前の回転スピードに合ってる」


「鹿島コーチ、今日は?」

珏が聞くと、俊介は笑う。

「師匠は裁判の準備で先に行った。最後に『軸を崩さず、自分の滑りを信じろ』って言っていた」


スピーカーから選手の出場順が発表される。

寺岡は8番、橘健太は10番、珏は12番——一番ラストの出場順だ。


「緊張してる?」

寺岡が肩を叩く。

「俺はちょっとだけ……だけど、珏が最後に滑るから安心だ!」


珏は苦笑しながら頷く。

「一緒に入賞しよう」


「当たり前!」


その時、珏のスマホが震える。

父からのビデオ通話だ。

画面の中は病院のベッドサイド、母の目が開いている——まだ言葉は話せないが、瞳がはっきりと珏の方向を見ている。


「小珏……母が、君の試合を見たいって」

父の声が震えている。

「看護師がインターネットで中継を見れるようにしてくれる。君のこと、信じてる」


「母さん……見えてるの?」

珏の声は自然と震えていた。


電話を切ると、出場順のアナウンスが再び響く。

「次、8番寺岡隼人選手!」


寺岡は深く呼吸をして「頑張るぞ!」と言い残し、氷面に滑り出す。

珏は控室から見守り、心の中で「きっと決まる」と祈る。


大阪の夕陽が氷场の窓を染める。

珏はスケートを履き直し、胸の徽章に指を押し当てる。


——母のため、

——翔太のため、

——師匠やおじさん、寺岡のため、

——そして自分のために。


3Aを決める。

決勝を制す。

この氷上で、自分の全力を燃やす——


珏の目には、決して揺らぐことのない輝きが宿っていた。

関西青少年選抜決勝——最も激しい戦いが、もうすぐ始まる。

みなさん~ 第七章読んでくれてメガ感謝!

3A ずっと転んじゃう珏くん、傲岸な橘くん登場でワクワク MAX でしょ~?次章ついに決勝本戦!

3A 成功するの?橘くんとの激闘どうなるの?超期待しててね!


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