決勝への調整と母の手
大阪の午後は,強い日差しが氷面を輝かせていた。
関西青少年選抜決勝まであと三日——関西アイスリンクの練習場は,他校の選手たちも集まり,緊張感が空気を締め付けるように漂っている。
珏はフリープログラムの後半核心である3Lz+3Lo連跳を練習している。
助走から起跳までは順調だが,Lz跳の着地時に金塑龍が即座に叫ぶ:「Lzの入りで外刃が浅い! もっと明確にアウトエッジを保て——刃が暧昧だとジャッジに減点される!」
続くLo跳は更なる難題で,「Lo→Loは軸が遅れればすぐ回転不足になる」と金さんが筆をノートに叩きつける。「助走じゃなく『前の着地の反動』を使え! 足元からの力で一瞬加速して起跳せよ」
珏は指示に従って繰り返す。
最初は第二跳の軸がぶれることが多いが,数回練習するうち,着地の反動を活かした起跳が順調になる。
空中ではっきりと二つの跳びを連続させ,着地時に刃を深く切る——「シュッ」と氷が裂ける音が響き,安定して落ちた。
「いいね!」
寺岡隼人が拍手をする。
「この連跳,大会で決まれば高得点取れる! 俺も練習しなきゃ…」
青い練習着の少年はうらやましそうに見つめ,すぐに自分の練習に戻る。
その時,氷場の入り口から橘健太が入ってくる。
黒いトレーニングウェアを着た少年は,珏の練習を一瞥し,冷笑を浮かべる。
「そのLo,回転不足気味だよ? ジャッジは見逃さない。あの程度じゃ,僕と同じリンクに立てないよ」
珏は顔をしかめるが,鹿島コーチが手を引く。
「相手の挑発に乗るな。」
老師は杖を地面に叩く。
「ジャンプの質を上げるのが大事。お前の長所は回転スピードだ——それを最大限に活かせ。」
練習の合間,翔太が病院から帰ってきた。
「兄ちゃん! 母さんがプログラムの録画を見て,指を動かしたよ!」
少年は紙を差し出す——上面には,母の手が微弱に動いている様子が描かれている。
「看護師さんが言うと,『1942年の夏』の旋律が流れたら,目を少し開けたって!」
珏の心臓が一瞬止まった気がした。
胸が熱くなり,鼻がつまる。
「…本当?」
「うん! おばあちゃんが録画を繰り返し再生してるよ。母さんは兄ちゃんの決勝を見たいって,強く願ってる!」
翔太が珏の手を握る瞬間,珏は決意を固めた——この決勝,必ず勝つ。
再び氷上に上がると,金塑龍が芸術面の調整を指示する。
「曲の三拍目で指先を開く。感情は指先から観客に流れるように」
彼は珏の背中に手を当て,「ここの力を抜け——腕は強く伸ばすんじゃない,空気を抱くように柔らかく。スピン時は視線を固定し,呼吸を着地時に合わせれば安定度が上がる」
夕暮れ时分,珏は全編を一気に滑る。
助走の速度調整,連跳の衔接,スピンのシェイプ——金塑龍の指導が実を結び,プログラムは完成度を増している。
だが最後のステップシークエンスで体力が底をつき,音楽のフレーズとタイミングがずれる。
「呼吸が荒い。」金さんが叫ぶ,「大会ではこのペースでは全編を滑り切れない! 明日から間欠走りで体力強化をする」
修正を加えて再び挑戦すると,ついに全編を完美に滑り切る。
最後の3Aでは,助走から着地まで零失誤で決め,音楽の最後の音符と同時にポーズを決める。
場辺から俊介おじさんの拍手が響き渡る。
氷場を出る時,珏の携帯が震える。
画面には橘健太からのメッセージが届いている——「決勝で会おう。俺が優勝する」
珏は画面を見て拳を締め,小声に呟く:「優勝するのは俺だ」
母の願い,翔太の期待,自分の決意——全てを胸に,決勝の舞台に臨む。
少年の目には,闘志が燃え上がっていた。
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珏と一緒に,決勝まで走り抜けようね!




