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2-4 女神たちの笑顔

タクマがザカーへ斬りかかる。リュウジが援護の氷結魔法を放つ。


テルキが防御を張り、ファル・フィンが動きと声で支援を重ねる。


グラムは盾となってブラッケルの群れを受け止め、リンとヴェルザが『描くこと』で戦う。


ザカーの傀儡マネキンたちが鞭のように地面を走るたび、地獄のような赤黒い炎が広間を走る。


だがそのたびに、光の守護獣が現れてそれを相殺していく。

芸術が武器であり、防壁であり、心の告白であった。


「傀儡マネキン……ブラッケル……ハ、誘拐シタ、女神タチ也」


「人間だったマネキンを傀儡のように使うなんて…絶対、許せない!」

リンとヴェルザは怒りを露わにする。


「人質戦術は嫌いっス! 錬金術式展開——ブーメラン・ハンマー!」

テルキがザカーが操開るブラッケルたちの糸を切り離す。


「テルくん、ナイス! 今日の私は一味違うわよ! フレームスケッチ《氷牙神フリュギア》!」

リンが氷狼の神獣を召喚し、ザカーを氷結する。


「リンちゃん、やるわね!ならこちらも重いの行きましょうか! スチームスケッチ《獄武神ゴルガルム》!」

凍りついたザカーを岩石で出来た《獄武神ゴルガルム》が強固な拳で叩き潰した。


ザカーの動きが止まり、潰された操り人形のように顔を上げる。その顔には、かつての傲慢も支配もない。ただ、ひとりの男として、妻を失った哀しみが宿っていた。


「ナラバ、セメテ……ソチラヘ、逝コウ……」


ザカーの胸の奥から、ゆっくりと光が漏れ出す。それは彼の懐に仕込まれていた、壊れかけた小さなペンダント——執事と同じもの……そして、オルゴールの音色——亡き妻が愛した音を奏でるものをザカーが持っていたのだ。


カラン、カラン——


その旋律に合わせるように、ザカーの体は静かに崩れ始める。まるで糸が切れた操り人形のように。手足から木くずのように砕け、仮面のような顔が外れ、最後には彼の本来の姿——一人の哀しげな男が、そこにいた。


そして決着のとき——。


「我ハ……我ハ……妻ニ……会イタカッタ……礼ヲ云ウゾ……」


思念体となったザカー枢機卿の最期の言葉は、微かな涙と共に広間に残された。


ザカーの身体は氷の粒のように崩れ落ちていった。


そして、オルゴールの音が止んだ瞬間、宮殿に静寂が戻った。


リンはそっと目を伏せた。


どこかで、微かに風が吹いた気がした。

それはきっと——ザカーの魂が、やっと本当に愛した人のもとへ帰っていった合図だったのかもしれない。


マネキンたちは次々と本来の姿を取り戻していった。硬質な肌が柔らかな人肌に変わり、ガラスのように無表情だった瞳に、次第に命の光が宿る。


まるで冷たい彫像が春の陽射しを浴びて目覚めるように、彼女たちは震えながら立ち上がった。


しかし——。


「あの、服が……」


一人の女性が両腕で体を抱えるようにして、小さな声で呟いた。彼女の頬には恥じらいの紅が差し、続くように周囲の女性たちも次第に同じようにうつむき、肩を寄せ合うようにして隠す。


「せっかく助かったのに、これじゃあ外にも出られない……」


その声に混じって、すすり泣く声があちこちから響き始めた。薄暗い地下の空間に、安堵と羞恥と混乱がないまぜになった空気が充満する。彼女たちは人形だった時間を取り戻すように、自分の身体を確かめるように手を見つめ、また涙を流した。


「こりゃあ……ちょっとまずいねぇ」と、ヴェルザがため息まじりに笑う。


「仕方ないな。じゃあ——召喚しますか、私たちの仕事で」


リンはそう言って、絵筆をくるりと回した。目を閉じ、一呼吸。頭に思い描いたのは、ゲームのキャラクターデザインで何度も試行錯誤した“着飾る喜び”のイメージ。


「召喚、ドレスコード・モード!」


すると空中に浮かび上がった光の輪から、ふわりと生地が舞い上がった。絹のように滑らかなドレスが優雅に広がり、レース、リボン、ビーズ、羽飾り——それぞれの女性にぴったりと似合う衣装が、まるで彼女たち自身の記憶を読んだかのように、一着ずつ届けられていく。


「あ、これ……私が昔好きだった色……」


「すごい……まるで夢みたい……!」


次第に、女性たちの瞳に再び光が宿る。ドレスを身にまとい、鏡のない中庭で、互いの姿を見合っては微笑み合う。


リンもヴェルザも、その様子に思わず顔を見合わせた。


「やっぱり、女の子は笑っている方がいいよね」


リンが笑いながら筆を取り、ヴェルザが肩をすくめて絵筆を振るう。鮮やかなドレスが布のように次々と舞い降りる。


ヴェルザは自分を取り戻し笑い、リンもまた自分の絵を取り戻し、笑った。


——こうして事件は幕を閉じた。



その夜、ヴェルザはリンに静かに言った。


「あなたの線には、震えるような正直さがある。『嘘』を描けない手の持ち主の絵だわ」


リンは、長い間胸の奥にしまっていた苦しみがほどけていくのを感じた。


「私……はじめて、自分の絵をちょっと好きになれた気がする。姉の絵じゃなくて、私の絵を!」


ヴェルザが、まるで姉のように笑みを浮かべ頷いた。

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