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2-3 傀儡

アステランの中央宮殿、その広間は重厚な装飾に包まれ、香の香りすらも芸術の一部として漂っていた。


だが、その静謐な空間に、じわじわと狂気の気配が滲み始めていた。


タクマたちの前には、巨大なキャンバスと二つのイーゼル。


片や女流絵師ヴェルザ・オルティナ、もう一方に若きアーティスト黄嶋リンが筆を取る。


両者に与えられた題材は一つ——ザカー枢機卿の『栄光ある肖像』。


「我ノ勇マシキ肖像画ヲ描ク也──」


そう命じた本人は、まるで玉座そのものが肉体と融合したかのような居ずまいで二人を見下ろしていた。だが、その眼には焦燥と渇望が滲んでいる。


やがて、静寂を切り裂くように、最初の筆がキャンバスを走った。


ヴェルザは、筆先に微笑を宿し、やわらかく、慈愛に満ちた女性を描いた。あたかも光を孕む絵の中に、かつてザカーの傍にいたであろう愛妻が蘇るように。色はあたたかく、風は春を思わせた。


一方のリンは、その筆を強く握り、眉間に深い皺を寄せていた。キャンバスに現れたのは、血の涙を流し、紅蓮の炎に焼かれながら、見る者を責めるような視線で睨み返す、怒りと絶望の女神——。


「ナント言ウ……事ダ……」


ザカーの言葉は震えていた。だがそれは感動ではない。正気と狂気の境界線を踏み越える者の呻き。


「貴様……コレハ、我ノ愛シキ妻デハ……ナイ!」


リンの手は止まらなかった。

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リンは思う。

「姉だったら、そういう絵を描くと思っていた。 だからいつもは描かない、しんどい絵を描いた、描きながら泣いたよ……奥さんを思って……」


静かに、けれど鋭利に言い放つその声は、広間に凍てつくような静寂をもたらした。


その瞬間——ザカーの背後に黒炎が渦を巻き、空から黒い糸が舞い降り、ゆらりと姿を現した。リンの機転、そしてヴェルザのアシストでザカーの二面性をあぶり出したのだ。


「我ガ名ハ——枢機狂ザカー。貴様ラ如キ小僧共ガ、我ノ本性ヲ暴キニ来タカ……!」


玉座が崩れ落ち、ザカーの肉体が変貌する。人間であった皮膚は剥がれ、筋肉に宿る瘴気が樹木の鎧となる。まるで操り人形のような傀儡である。


そして、ザカーの指先からさらに黒い糸が無数に伸び、傀儡マネキン《ブラッケル》が咆哮を上げ、闇の炎を広間に解き放った。


だが——その瞬間。


「アークコード発現。バグ干渉、可能!」


ファル・フィンの声が天井を突き抜けた。

空間が一瞬、電脳ノイズのように揺らめき、システムの声が続く。


《思考フラグ:第ニボスモンスターの心理状態、確認》

《【天国】と【地獄】の範囲を再設定。第ニボスモンスターの存在を【現世】に固定》

《召喚士【ヴェルザ・オルティナ】の【記憶】を再インストール》


タクマが叫ぶ。

「ここで仕様変更します! 似顔絵士ヴェルザは——『召喚士ヴェルザ・オルティナ』へと再起動! 《スチームスケッチ》と《魔神の筆》装備完了! 全員でザカーの『傀儡隊』とボス戦開始だ!」


ヴェルザの背後に、光と蒸気が絡み合った蒸気筆が召喚される。

筆は回転し、符号のような魔方陣が描かれていく。ひと振りするごとに、光の線が宙を踊り、守護の獣たちがキャンバスから現れる。


「いくよリン。ここが、貴女と私の本当のキャンバスだ」


リンが答える。

「うん、もう逃げない。姉がもしここにいたら、絶対逃げない……だったら私も、やっぱり逃げずに戦う!」

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