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10-10 世界と光と闇の意志

静寂の中に、ひとつ、深い声が響いた。


「——私はいま、人々が『平和』と感じている価値観を、ひっくり返すために生まれた存在なのだ」


かつてゼクス・ブランダだった『それ』は、今や光の残滓の中で、意識のみを漂わせながら語っていた。その姿はもう見えない。だが、その『存在意義』は、確かに残っていた。


「疫病があって、薬剤が生まれる。順番を変えれば、どちらが『必要』か分からなくなる。毒と薬は紙一重。我ら魔王軍が疫病なら、キミたち六英雄は治療薬だ。だが、薬も、過ぎれば毒となる——そうは思わないかね?」


誰も言葉を返さない。


タクマも、グラムも、カオも、そしてファル・フィンすら、その『問い』の重みに圧倒されていた。


「光があれば闇がある。それは相対するものではなく、共に存在してこそ、世界という『輪郭』が成り立つのだ。我々の目的は、ただ——『我々の存在が、正しく存在していることの証明』だ!」


残響が、まるでこの世界そのものに問いをぶつけているようだった。


「闇があるから、光は意味を持つ。光が正義で、闇が悪? そんな単純な話ではあるまい? 我々、魔王軍とは、《影なる意思》の結集である。誰かが目を背けた『負の感情』そのものが、我らの血肉だ」


ノア姫が静かに口を開いた。

「……でも、その感情すらも、存在してくれてありがとうと言いたいわ。光だけの世界は、きっと、どこかで歪んでしまう。闇があるから、光は自分を律せる」


クロウが続ける。

「だからこそ、我々は『闇を滅ぼす』のではなく、『共に在る』道を探してきた。だが、お前は——光を否定し、存在すら上書きしようとした。それが、戦う理由だ」


それを聞いてもなお、魔王の『意思』は微笑む。


「キミたちの正義と悪を見極める『天秤』——《カオスメーター》。それすら、我々の存在によって初めて意味を持つ。 『アートマン』であれ、『ブラフマン』であれ、己の視点でしか語れぬ者に、正義は語れぬ」


ファル・フィンが、小さくつぶやいた。

「じゃあ……あなたは、誰に『証明』してほしかったの?」


その問いには、答えがなかった。


ただ、ほんのわずか、漂う光が震えたように見えた。


タクマが前へ進み、刀を抜くこともせず、ただ空間に向かって語る。

「なあ、ブランダ。お前の言い分、わからなくもない。俺たちが光だって決めつけて、お前を悪だとした……そのことが、きっとお前を追い詰めたんだろうな。でもな——俺たちは、もうその『正義』の使い方を変えることにしたんだよ」


「……それも、仕様変更……か?」


「そう。正義と悪を、勝ち負けで決めない世界に変更する。お前が『存在してくれてありがとう』って言われるような世界に——これからは、なっていくさ」


ブランダの声が、最期のように、静かに答えた。


「——あえて言おう、キミたち冒険者には……感謝している。おかげで、我らは闇の軍団として……最後まで、生命を全うできそうだ」


そして。


「だが、忘れるな。キミたちが『光』ならば、我々は『闇』として存在する。キミたちが闇の存在になったときには、我々が……『光』になるだろう」


その瞬間——ゼクス・ブランダの設計は、十二英雄の天文学的な攻撃力により破壊し尽くされ、再起動も、修復も、仕様の戻しも、もはや不可能となった。


彼のコードは涅槃に放り込まれ、永遠に幽閉される。


その最後の言葉だけが、空気の中に、残された。


「——我らは常に、キミたちを見ているぞ。光でも、闇でもなく……『無』の彼方より」


そして——魔王は、光の粒子となって、すべての世界から、消えた。



世界が静まり返った。


異音も、破壊の気配も、どこにもなかった。


代わりに、光が満ちていた。


柔らかく、あたたかな、春の陽だまりのような光が、魔王城全体を包み込んでいた。


タクマがゆっくりと剣を収めた。


カオがヨウの手を握る。


クロウがノア姫に礼を捧げる。


グラムが武器を肩に担ぎ、にやりと笑う。


ヴェルザがスチームスケッチを空に掲げると、色とりどりの花びらが舞った。


リンがそれを見て、思わず感嘆の声を漏らす。


セレノが星の杖を掲げ、消えゆく空に祈りを捧げた。


テルキは、がくがく震えながらも、ドゥーガとガッツポーズ。


リュウジがそれを見て、なぜか爆笑。


そして——ファル・フィンが、翼を広げる。

「……終わったんだよね?」


タクマが頷く。


「うん。これで本当に、物語は終わったんだ」


「——なら!」


ファルが叫んだ。


「六英雄と、六開発者! そして、妖精一人! 全員で——バグ修正完了の勝利ポーズ!」


誰からともなく、笑いが溢れた。


全員が、天に向けて両手を掲げた。

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