10-9 最終仕様変更
世界が震えていた。
魔王城ディランベルトの玉座の間は崩壊寸前。天井はひび割れ、床からはマグマのような魔力が滲み出し、空間そのものが歪んでいた。
そして中心に立つのは、ゼクス・ブランダ——
すでに『人の形』ではなかった。六体の魔将が融合し、四肢と胴体のすべてが異形の魔力結晶と化し、禍々しい呼吸音を発している。
その咆哮一つで、壁が砕け、空間が裂ける。
ブランダが魔王城のエンジンと融合したことにより、この世界全体をコードごと再構築しようとしていた。
「来るぞッ!!」
タクマの叫びとともに、ブランダの左腕から禍々しい斬撃が走る。
スカルツァのレイピアが暴走のうなりを上げ、グラムたちの間を薙ぎ払った。
「くそっ、まったく……えげつねぇな!!」
リュウジが盾の魔法を展開しつつ、ギリギリで避ける。
「やばいってコレ!何してくるか、まったく読めない化物ッスよ!」
テルキが叫ぶ。
だが、皆が散開しながらも、一つの視線に引き寄せられていた。
——タクマ。
彼の動きに、誰もが注目していた。
「あー、こりゃ……バレてんな」
タクマが苦笑した瞬間、ファルが天高く飛び上がり、金色のエフェクトを空中に描き出した。
「それじゃあ——みんなご一緒に!」
ファルの高らかな声に応え、全員が叫んだ。
「ここで仕様変更します!!」
「えっ、ちょ、お前ら……先読みすぎだろ!」
タクマが思わず素で動揺するが、誰も止まらない。
彼らはすでに、次のステージを信じていた。
「六人パーティから——十二人パーティに仕様変更!《LLBシステム マークII》アップデート!! 各員ペアで大技をぶちかませ!」
空間に広がる魔法陣が青から白金へと変化し、タクマたち十二人がひとつの円陣を形成する。
それはただのパーティ連携ではない。かつて誰も見たことのない、十二人連結仕様——新バトルロジックの発動だった。
——クロウ&ヨウ
「我はガイラム帝国騎士団総長、聖騎士クロウ・ヴァルザークなり。闇を捨てたものだけが、この力を手にできるのだ! リア姫を永遠にお守り申す!」
「第二開発部エフェクトデザインチーフ、黒咲ヨウ。カオに迷惑かけさせて、許さないから!エフェクト多めで月まで吹っ飛びなさい」
ファイナルフュージョン奥義:《ノクターナル・ムーン・ジャスティス》!!
十字の月光が降り注ぎ、スカルツァの腕が砕け散る。ブランダの右腕が粒子になって霧散した。
——ノア&カオ
「ガイラム皇女ノア・ファルシア、修道の歌女にして、この世界の証人。カオさんに感謝いたします」
「第二開発部UI/UXデザインチーフ、桃山カオと言います! こちらこそお礼を申し上げます! お姫様役楽しかった! でもアンタは気持ち悪い〜、NG!」
ファイナルフュージョン奥義:《ホーリー・ソング・トランスメーション》!!
歌声とフルートの旋律が交わり、白い光がギオルグの幻蟲花の脚を焼き尽くす。ブランダの左脚が崩れた。
——ドゥーガ&テルキ
「我が名は鍛冶士ドゥーガ・アインベルグ! 大陸一の鍛冶屋! 《金剛機鎚》を喰らうがいい! ユゥーガ、終わったら帰るからなァ! 俺が鍛えた武具が、世界を守る!」
「ぼ、僕は第二開発部デバッグアルバイト、緑川テルキっス! いやはや、とんでもエンブレIIIになったっス! 聞いてないっス、こんなの……まあ、いいや、面白ければ、それを仕様といたします!」
ファイナルフュージョン奥義:《エンドレス・チューン》!!
熱き金剛機鎚とスチームハンマーが交差し、ブランダの胸にある妖魔ロウランを貫いた。妖魔の核が消失し、胸が崩落する。
——ヴェルザ&リン
「大陸一の芸術家にして、大陸一の召喚士とは、このヴェルザ・オルティナのこと。筆よ応えよ、我が声に!」
「だ、第二開発部、あ、アートディレクター黄嶋リンでぇす! そんな無茶苦茶なラスボスのデザインは認めないわよ! 地獄でやり直しなさい!」
ファイナルフュージョン奥義:《超獣戯画『白虎蒼龍激鉄』》!!
白虎と蒼龍が咆哮し、空を裂く蹴撃と牙突でザカーの杖を打ち砕く。ブランダの左腕が瓦解する。
——セレノ&リュウジ
「我が名は魔術士セレナ・ノクス、星読みの民にして、秘術を継ぐ者なり。星の理に従い、滅びの光をもたらさん……!」
「第二開発のジーニアス・リード・プログラマー青柳リュウジ見参! プログラマーに組めないものはねぇ、食らいやがれ!」
ファイナルフュージョン奥義:《ステラコード:ワープ・コア・アーカイブ》!!
天から降り注ぐ星の記録が、ラミグレインの右脚を情報ごと消し去った。
——グラム&タクマ
「我こそが《六英雄》総大将、戦士グラム・ライナルト! 我がラサラ王国軍を滅ぼしたブランダ魔王軍よ、今こそ永劫の決着の時だ! あえていま一度言おう、俺の剣が仲間の、いや世界の未来を切り拓く!」
「俺は第二開発部ゲームディレクター赤木タクマ! 俺の企画が仲間の、いいや世界の未来を切り拓く! ゼクス・ブランダめ、インパクトだけは認めてやるが、おととい来やがれ。仕様変更してやるぜ!」
ファイナルフュージョン奥義:《ライジング・ツクヨミ——月華天舞剣!!》
剣と剣、意思と意思が交わり、全身全霊の一閃がブランダのコアを直撃した。
異形の構造が砕け、六傑の名残が次々に光の粒子と化して剥がれていく——やがて、ゼクス・ブランダの体が元の姿——人魔の魔王ブランダにまで縮小していく。
その瞳に宿るのは、かつてのような冷酷な支配欲ではなかった。
「……なるほど、これが、お前たちの『仕様変更』か」
ブランダは静かに、敗北を受け入れたように目を閉じる。
そして、最後にファルが羽ばたき、空高く舞い上がる。
「じゃあ、最後に決めてもらいましょう。
みんな、行くよ——せーの!!」
全員が叫ぶ。
「真・十二英雄——ダブルエンドブレイカー!!」
天空から落ちるような巨大な魔法陣。
地を穿ち、天を裂く双重の刃がブランダを中心に交差し、轟音とともに世界を貫いた——。




