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10-8 再起動された世界と、最後のエンバグ

白い閃光が魔王城ディランベルトの最上階を満たしていた。


かつて終末の力だった《ノクターナル・ノヴァ》は、仕様を超える祈りと再定義された命によって、《エターナル・ノヴァ》へと姿を変え、妖精ファル・フィンの魔法陣に吸い込まれていった。


渦巻いていた黒い闇は、白く優しい光へと変わり、呪いの祭壇に漂っていた死の気配が音もなく消える。


そして訪れる、静寂。


——誰もが息を呑んだ。


カオとヨウが抱き合っている。


やがて。


「……あぁー、ちょっと、ちょっと。すごいお花畑で寝てたんだけどさ、空からヨウちゃんが降ってきて顔に直撃して、すっごいびっくりした。……何これ、夢オチ?」

カオの目がさらに見開き、彼女らしい調子で軽口をこぼす。


「——カオ!」


「カオさん!!」


「……生き返ったぁぁぁ!!」


その瞬間、場が弾けるような歓声に包まれた。


ヨウは涙を止められないまま、全力でカオを抱きしめた。

「ほんとに、ほんとに……戻ってきたのね……!」


カオはきょとんとしながらも、ヨウの背を抱き返す。

「うん、戻った。ていうか、戻された? よくわかんないけど……ありがとう」


それは、まぎれもなく生きている者の体温だった。


カオはもう、ノア姫役の影を背負っていなかった。

ヨウもまた、黒き騎士ではなく、再び『聖騎士ヨウ』としての魂を取り戻していた。


タクマは、安堵の吐息をつきながらも、仕様変更の裏側をぽつりと語った。


「変更したのは、《ノクターナル・ノヴァ》の方だったんだ。


皇女ノア姫の復活フラグは、そもそも仕様上存在しなかった。でも、ノヴァの力を利用して『死亡コードそのもの』を吹っ飛ばして、生存可能な枠組みに書き換えてやった。


でも……それをやるには、次元の狭間——コード・ディメンションに投げ込むしかなかったんだよな」


「そこで、アタシの魔法陣!」


ファルが笑顔でぴょこっと手を挙げる。


「うん、あの『アイテムをコードから直接引っ張り出す』あれ、めちゃくちゃだったけどさ。まさかあれがヒントになるなんてな……」


ヨウはカオの肩を抱いたまま、呟くように笑った。


「……結局、コードも仕様も、壊せるのは……『祈り』なんだね」


リュウジが目を細めてつぶやく。


「死亡フラグの復元領域そのものを、ノクターナル・ノヴァの圧倒的エネルギーで破壊して、白魔法の蘇生効果に再変換……しかも、それをファル・フィンの異次元ポケットに収めるって……お前、タクマ。天才というより……ただのアホだよ」


「それ、褒め言葉として受け取っとくよ」


そして、皆が笑い始めた。


長かった戦いが、ようやく終わった——そう思った、そのとき。


魔王城全体が揺れた。

崩落でも地割れでもない。


もっと底の深い、世界そのものの『構造が書き換わる』ような、根源の震えだった。


「……まさか、こんな形で『揺り戻し』が来るとはな」

重く、不気味な声が響いた。


城の床が裂け、そこから這い出してきたのは、かつての魔王ブランダ——

だが、その姿はもはや人でも魔でもなかった。


「これは……ッ!?」


タクマが即座に後退し、三日月ムネチカを構える。


かつての肉体は焼け落ち、今やその存在は魔王城の主動力炉と融合し、金属と魔素と異形が混ざり合った『存在災害』とでも呼ぶべき形に変貌していた。


右腕には《髑髏騎士スカルツァ》の剣腕。

右脚には《禁忌ラミグレイン》の咆哮する触手。

左腕には《ザカー枢機狂》の無数の糸と操り人形。

左脚には《幻蟲花ギオルグ》の花弁のような甲殻。

胸には《妖魔ロウラン》のクリスタルの心臓。


「すべてを破壊し、再構築し……《ゼクス・ブランダ》として、再誕を果たしたッ!!」


異形の最終形態。その名の通り、《魔将六傑》すべてを自己に取り込み、形状すら不定形に変化し続ける魔王の真の姿。その圧力に、空間自体が軋みを上げる。


「ちょ、ちょっと!? こんなの聞いてないですよ!?」

リンが悲鳴をあげた。


「魔将六傑全部合体って……バカでしょ!? 『混ぜるな危険』って表示しとけよ!!」

テルキも頭を抱える。


「いやもう、これ、完全にエンバグっスよ! 先輩! 仕様変更しすぎたせいで、世界のセーフガードが逆起動してんじゃないっスかこれ!」


「うん……たぶん俺が原因だな。ごめん」


「謝って済む話じゃないぞ!」

グラムが叫ぶ。すでにストームブリンガーを構え、圧力に対抗する魔力を充填し始めていた。


セレノも静かにマジックロードを握る。


「これまでの『仕様』を一から破壊して、君たちは奇跡を起こした。ならばこちらも『構造』ごと書き換えねば、つり合いが取れぬというわけか……あまりに、自然な『エラーハンドリング』だな」


ヴェルザも、苦笑いしながらスチームスケッチを開いた。

「……世界がバグってるって話だったけど、ここまで来ると『開発者の責任』でもあるわけだよね」


タクマは深く息を吐いた。

「……いいだろう。やろうぜ、最終決戦。仕様も、運命も、世界さえも超えて——俺たちが物語を作る!」


「最後の戦いだよ、カオちゃん!」


「うん! もう、絶対に負けない!」


「ファル・フィン、案内は任せたぜ」


「ええ、ナビゲートなら任せて! ……これが、ほんとの『最終ルート』!」


「アークコード、発現……バグ干渉、可能!」


《思考フラグ:最終ボスモンスター:ゼクス・ブランダを確認》

《戦闘ロジックを再構築中──【開発者】と【キャラクター】を同時制御、可能》

LLBリンク・ライン・バトルをアップデート》

《ファイナルフュージョン奥義:『合体技』の効果を追加》


魔王城最上階に響き渡る、不協和音の咆哮。


だが、それを迎え撃つは——この世界に召喚された、ゲーム開発者たちによる仕様変更パーティー。


今ここに。

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