表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/48

10-5 魔シン式崩落フロア

迷宮第三階層——


目の前に現れたのは、無限に広がるかのような黒鉄のホールだった。天井は見えず、四方の壁面も霞がかって実体を掴めない。まるで、空間そのものが『虚構』で編まれているようだった。


床は一枚岩のように静まり返り、中心に円形の装置が埋め込まれている。


「……これが第三階層か。空間、完全に切り替わってるな」


リュウジが辺りを見回し、魔力探査を試みる。


「エレベーター、みたいなギミックっぽいな。床全体がプラットフォームになってる。魔導昇降式……旧文明製か」


「ってことは、上昇する仕組みだな。まるで最後の審判にでも向かうような気分だぜ……」

グラムが肩の大剣ストームブリンガーを静かに叩きながら言った。


そのとき。


重々しい振動とともに、床が鈍く光を放ち始める。昇降装置が稼働したのだ。


「みんな、乗って! このフロアごと……上がってる!」


ファルが指差した瞬間、床全体が音もなく浮上し始めた。滑らかで、異様に静かな浮遊。だが、それが逆に不気味だった。


「これも……何かあるぞ、きっと!」

ドゥーガが辺りを睨みつけながらつぶやいた——その直後。


ピコン。床の一部が微かに光った。

「……ん? なんだこれ――うわッ!?」


ドゥーガが乗っていた場所が一気に消失した。地面が音もなく『抜け落ちた』のだ。


「うわあああああああ!?!?!? ちょっとまってちょっとまってああああああ!?!?」


咄嗟に飛び退いた彼はギリギリで落下を免れたが、その床の穴は底の見えない奈落へと続いていた。


「どわああ……ッぶねえ!!」


「今のって……」


ファルが羽をばたつかせながら浮き上がる。

「床が光ったところに乗ったままだと、落ちちゃうよー! これ、魔シン式崩落フロアだよ、みんな!!」


「マジかよ……罠付き昇降エリアとか、聞いてないぞ!!」

テルキが顔をひきつらせる。


「タイミングで光る床が切り替わる……完全にアクションゲーム仕様じゃねぇか!」


リュウジが手をかざして床の挙動を解析しようとするが、魔力信号が混線して正確な予測ができない。


「これ、マップも魔法も無効化されてるっぽいね……」

リンが眉をひそめた。


「おっさんをなめんなよ!まったく!」ドゥーガもヘトヘトだ。


「となると……目視と感覚で対応するしかないってことか」

タクマが周囲を見渡し、刀を握りしめる。


「全員、ファルの指示に従って移動! 光る床に絶対乗るな!!」


「りょーかいっ! いま、左の前方が光ったよ! 次は右後ろだよっ!」


ファルの甲高い声がホール中に響く。仲間たちは次々に指示を聞いて動き出す。


「三時方向、回避!!」


「九時! 跳べッ!!」


「そこ光るよテルキー! 下がって!!」


「へっ!? うわあああ!? た、助かったッス!」


床が抜けては閉じ、また別の場所が光る。そのたびに誰かが叫び、跳ね、踏みとどまり、次の一歩へ進む。


浮上する昇降フロアは、時間が経つごとにスピードを増し、床の切り替わりも加速する。


「くっそ、パターンが複雑化してる! フェイントまで入ってきやがった!」

リュウジが叫ぶ。


「魔シン式崩落フロア第III形態、ランダム要素入り! これはプレイヤー殺しにもほどがある!」


「まるで、誰かの『呪い』みたいだな……」

セレノが低く呟いた。


「……その『呪い』って、魔王の意思ってことか……」

タクマの言葉に、空気が一瞬、静まる。


ファルの声が、再び響く。

「あと少しで、上階に到着だよ!! ここからがラストスパートっ!!」


「ラストだってよ……やってやろうぜ!」


グラムが気合いを入れ、大剣を担いで飛び跳ねる。


「ここで落ちたら、笑い者ッスよ!」


「それだけは避けたいわね!」

リンとテルキが笑い合う中、最後の一撃のように床が一斉に明滅を始める。


「今だッ! 跳べぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

タクマの号令とともに、全員が一気にダッシュ——


そして、煌めくように光が止んだ。

フロアが静かに停止し、天井だった場所がスライドして開いた。


彼らは、魔王城の最上層——『玉座の間』に到達したのだ。


一瞬の静寂。誰もが息を整える。


「……落ちずに済んだ。全員、生存確認」


タクマが静かに言うと、全員が大きく頷いた。


「この次が……最後だな」


「ええ……ここが、物語のエンディング」


「けど、結末は変えられる。それが——俺たち、ゲーム開発者だから」

タクマの視線の先には、巨大な扉があった。


禍々しくも荘厳な紋章が刻まれたその扉の向こうに——ヨウが待っている。


光と闇の交差点。


生と死の境界線。


そして。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ