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10-4 魔シン式圧殺キューブ

迷宮の構造が変わったのは、第一階層を突破した直後だった。


重々しい鉄の扉が開き、第二階層へと足を踏み入れたタクマたちの前に現れたのは——複雑に入り組んだ鉄と岩の回廊。そこはまるで、巨大な機械が吐き出した腸のように絡み合い、天井も壁もすべて同じ灰色で統一された無機質な世界だった。


「……これはまた、いやな予感しかしないな」


リュウジが呟いた直後だった。


地鳴りのような音とともに、迷路の向こうから『それ』が迫ってきた。


壁を押し割って突進してくる巨大な立方体。側面には赤い光を帯びたルーン文字が浮かび上がり、鉄の角には鋭利なブレードが回転している。天井と床をも巻き込み、通路すべてを塞ぐその巨体は、もはや一つの兵器というより、「動く殺戮壁」だった。


「魔シン式圧殺キューブ……! こっちは防御どころか通路ごと潰す設計かよ!」

リュウジが歯を食いしばった。


「これは確実に仕留めに来ているな……」

グラムが低く唸る。


「行き止まりに迷い込んだら、全員潰れるわ。冗談抜きで」

ヴェルザの声に、空気が一気に張り詰める。


魔シン式圧殺キューブ——旧文明時代に開発された「都市封鎖兵器」。


巨大な迷路の中を無作為に徘徊し、遭遇した存在を物理的に『排除』することに特化した自律型の立方体。しかも、この階層の通路はすべて、そのキューブがちょうど収まるサイズで設計されている。


「まるで、潰されるためのパズルだな……」

タクマが眉をひそめたその時、警告音のような赤い光が通路の上に灯った。


「また来るッス! 三時方向から接近中ッスよ!」

テルキの声に、全員が迷路の一角へ飛び込んだ。


直後、角を曲がって出現したキューブが轟音と共に通路を押し潰しながら通過していく。


「ひとつじゃない……こいつら、複数同時に動いてる!」


「迷路の中で挟まれたら即終了だな……!」とリュウジ。


「ここまでくると『謎解き』じゃなくて『圧殺ゲー』だな」


「……謎、か」

ヴェルザが小さく呟いた。次の瞬間、彼女はすっと腰のスチームスケッチから筆を取り出し、目の前の壁に絵を描き始めた。


「ヴェルザ!? こんな時に何を——」


「この迷路、規則性がある。複数のキューブが『決まったルート』を巡回してるなら……地図が描けるわ」


その言葉に、タクマの目が見開かれる。


「それってつまり、ルートが読めれば……」


「走り抜けられるわ。みんな、力を貸して!」


ヴェルザが魔神の筆を走らせると、壁の一部が『地図画』として浮かび上がった。立体の構造を持った見取り図が、魔力によって光を帯び、現在位置と敵キューブの巡回ルートがリアルタイムで浮かび上がる。


「この交差点を抜けた先に、ループの切れ目があるわ。そこを通れば、一度だけ敵が来ないタイミングができる。全員で走り抜けるしかない!」


「走るだけなら……任せろッ!」

グラムがストームブリンガーを担ぎ、先頭に立った。


「いいか、みんな。ヴェルザの作ったルートを信じろ。時間差で来るキューブの隙間——そこが唯一の突破口だ!」


タクマが全員の顔を見回す。誰も言葉を発さない。ただ頷くだけ。もう彼らに迷いはない。


「よし……カウント開始! 5……4……」


——右奥から、確かに音が迫っている。


「3……2……!」


左の壁を越えて、キューブが通過する。風圧が吹き荒れ、床が震える。


「1……今だッ!! 走れ!!」


一斉に駆け出す。


鉄の迷路を風のように走る。足音すら聞こえないほど集中した空気。すぐ背後から、まるで地響きのようにキューブの音が迫ってくる。


リュウジが叫ぶ。

「マジックロッド:アクセル・バースト! 走行速度強化魔法、全員に拡散!」


足元に魔法陣が浮かび、身体が軽くなる。

「フレームスケッチ——《旋風狐ヴィルト》! 加速の風、吹き抜けて!」


リンの召喚した小型幻獣が風のように走り、背中を押す。仲間たちのスピードがさらに上がった。


「まだ……まだかッ!?」


「あと20メートル先で左折よ! その先が抜け道!!」


ヴェルザの声を受け、タクマが叫ぶ。


「テルキ、壁を頼む!」


「お任せッス——錬金術式展開ッ!! ブレイク・ハンマー!」


巨大なハンマーで通路の一部を砕き、新たな『突破口』を開く。

瓦礫が散る中、彼らは飛び込んだ。


すぐ背後でキューブ同士が交差し、迷路の一角を完全に圧壊。瓦礫が飛び、鉄がねじれる音が響いたが、全員は無事だった。


「はあっ、はあっ……間に合った……!」

ファルがほっと胸をなで下ろす。


「いや、まだ終わってないッスよ。キューブの音、こっちに回ってきてる!」


「なら……やるしかないな。全員、最終ダッシュだ!」


再び駆け出す一行。地図を頼りに、数秒のズレすら許されないタイミングで迷路をすり抜けていく。


そしてついに——巨大な鉄の扉が視界に入った。


「出口だッ!!」


タクマが叫ぶと同時に、全員が最後の力を振り絞ってその扉に飛び込んだ。


直後、背後で「ズドォン!」という音とともにキューブが通過し、鉄の扉が自動的に閉ざされる。


静寂。


数秒の沈黙ののち、誰かが笑い出した。


「……あー! 生きてるってスゲェ!」

グラムが息を切らせながら笑うと、次々と皆の顔に笑みが広がっていった。


「ヴェルザの地図がなけりゃ、確実に潰されてたな……」


「迷路の敵でパーティー全滅とか、ゲーム的には理不尽すぎるわ」

タクマが微笑みながら言った。


そして、一歩、また一歩と進む。次の階層へと。


闇の中心——最終決戦の場へ。

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