10-2 鋼鉄の翼、魔王城を穿つ
まるでピラミッドを逆さにしたような三角錐型の魔王城ディランベルト。
かつて空の覇者として君臨した古代の浮遊城は、いまや濃密な魔力の雲海に包まれ、禍々しい黒の閃光を空へと吐き出していた。星脈網の遮断、天候の撹乱、そして空間歪曲——すべてが侵入者を拒む『終末の牙城』と化していた。
そんな城の眼前を、轟音とともに切り裂く《飛行艇エクソダス》の姿があった。
鋼鉄と魔導を組み合わせた反重力駆動の艦体が、振動と軋みを上げながら超低空を突き進む。
艦橋には、赤いマントをはためかせた男が立っていた。ディレクターにして戦士、赤木タクマ。鋭く前を見据えるその瞳には、迷いも、怯えも、もうない。
「全員、配置につけッ! ……来るぞ!」
タクマの声と同時に、霧の中から——出た。
空を裂いて現れたのは、鋼鉄の翼を持つ無数の《鳥型防衛兵器アークレイヴ》。その姿はまるで錬鉄の鴉。群れを成して飛来し、赤い眼光で獲物をロックオンする。
「敵機、九時方向より多数接近! 数は……くそっ、百を超えてる!」
「フッ、派手に歓迎されてんじゃん。やってやるよ!」
リュウジがマジックロッドを構え、叫ぶ。
「マジックロッド:アストラル・スパーク!」
空中に放たれた雷撃が、アークレイヴの編隊を貫いた。爆発。閃光。軌道を外れた機体が火花を散らしながら落ちていく。
「リンちゃん、いける?」
「はい!フレームスケッチ——《冬鏡神グラセリス》!」
リンのペンが空中に軌跡を描くと、氷の髪と爪を持つ女神が飛び出し、空中戦へ参戦。アークレイヴと噛み合うように衝突し、氷柱が雨のように降り注ぐ。
「前方クリアリング不足ッス! 防衛ライン密度が高すぎッスよ!」
テルキがハンマーを構え、甲板を踏みしめて叫ぶ。
「錬金術式展開——《ハリケーン・ボルト》!!」
爆風とともにハンマーからエネルギーの杭が打ち出され、前方の障壁装置ごとアークレイヴを薙ぎ払った。だが敵は、なおも止まらない。
敵群の一角が突破し、飛行艇の甲板に取りつく。鋼の爪を広げ、まるで亡者の群れのように襲いかかる。
「このっーー!」
タクマが跳び、抜いた。三日月に輝く刀身——日本刀《三日月ムネチカ》。
「終ノ月・空斬り(ついのつき・そらぎり)!」
グラムもストームブリンガーを振る。セレノが詠唱し、ヴェルザも召喚で反撃をかける。
斬撃の軌道が空を歪め、敵機を数十機まとめて切り裂いた。黒煙とともにアークレイヴが爆散する。
「全員、耐えてくれ! 次の衝突で、魔王城へ叩き込む!」とドゥーガ。
その言葉に、誰もが顔を上げた。——特攻。
ドゥーガの言葉通り、このままエクソダスを魔王城の側面へ突き刺し、強襲揚陸を敢行する。それは艦の破壊を意味し、脱出の保証もない。
「これが……俺たちの作ったゲームだ。だったら最後まで、ゲーム開発者でいようぜ」
タクマの言葉に、皆が頷いた。
リュウジが苦笑しながら言う。
「まったく、ディレクターの言うことは重たいんだよな」
リンが背後の召喚獣に命じ、氷嵐で後方を遮断する。
「でも、私も賛成。ここで終わらせないと、カオの死も無駄になる」
「カオさんの……ためッスよ!」
「なら、決まりだ」
タクマは叫ぶ。
「突入ッーー!!」
エクソダスが魔王城の側壁へ急接近。城の外殻は黒鋼で覆われ、無数の魔導結晶が脈動していた。防御機構が最後の拒絶を示すかのように、砲塔が開く。
「セレノ!」
「任せておれい——マジックロード:ディスチャージ・カウンター!」
過剰出力された魔法障壁が艦の前面に展開され、迎撃砲のレーザーを相殺する。その隙に——エクソダスが衝突。
轟音とともに、飛行艇の艦首が城壁を貫き、魔王城に楔を打ち込む。火花と瓦礫、崩れる床。だが、その混沌の中を、彼らは走っていた。
「生きてる! みんな、無事か!?」
タクマが振り向くと、煙の中から仲間たちの姿が現れた。肩を怪我している者、服を焦がされた者もいたが、誰一人欠けていない。
「ふぅ……死ぬかと思ったぜ」
グラムが額の汗を拭う。
「いや、まだ死ねない……これからが地獄かも」
リンが息を整えながら言う。
タクマは刀を握りしめる。振り返れば、後方のエクソダスが崩れ始めていた。帰還の道は、もうない。
「行こう……カオの仇を討つために。ヨウを——取り戻すために!」
仲間たちは頷き、瓦礫の中を駆け抜ける。
彼らの前に広がるのは、未踏の闇。魔王城の最深部、終焉の間へと続く階段。
だがその歩みは、確かだった。
これはタクマたちの物語。生き残るための戦いではなく、『魂を燃やす』戦いだ。
——魔王城ディランベルト、強襲揚陸、成功。




