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9-1 クラウド・オブ・フォーチュン

飛行艇エクソダスは、妖精の島エルヴァーンを出発してからというもの、赤く染まった大空を突き進んでいた。《ノクターナル・シンドローム》は進行しており、燃えるような空は暗雲に取り囲まれ、昼も夜もなく白夜のまま過ぎて行く。


そんな中、前方に突如として姿を現したのは——浮遊する黄金の塔だった。


「……カジノ……か?」

タクマが眉を上げた。


ファルが翼をはためかせて、ひらりとタクマの肩に降り立つ。

「そう、これは《カジノ・ネフェリム》。天空に浮かぶ幻の娯楽宮殿。時折、エーテルの流れに乗って現れるって言われてるの」


「へえ、最終ダンジョン前に休憩ってわけだな」リュウジが肩を鳴らす。


「少し羽を伸ばしてもバチは当たらねぇだろ。俺ら、最近ずっとバトル尽くしだったしな」


「賛成だ」セレノが、ローブの裾を整えながら微笑んだ。

「ここで一息入れるのも、星々の導きだろう」


船を預け、皆でシャトルに乗り換え、金色に輝く天空の回廊を渡ると、そこに広がっていたのは——まさに夢のような宮殿だった。


白金の柱に囲まれたホールの奥では、ルーレットが回転し、カードが宙を舞い、スロットが七色の光を放つ。銀砂のカーペットに、クリスタルのシャンデリア。浮遊式ディーラーの天使たちが笑顔で案内する。ここは夢と欲望の楽園、カジノ・ネフェリム。


入場時に1,000ギルズが渡された。仮想通貨としてカジノ内で使用できるもので、退出時にアイテムや装備と交換が可能だという。


「おう、タクマ。俺らちょっと《クラウド・オブ・フォーチュン》行ってみるわ」

そう言ってグラムが、セレノ、リュウジとともにルーレットホールへ向かった。


ルーレットテーブルは天界の円盤のように輝いており、ベット枠には天使の紋章と悪魔のサインが浮かび上がっていた。天使のディーラーは微笑みながらルーレットを回す。球が弾け飛び、銀の枠を弾く音が、軽やかに場内を跳ねた。


「黒の9、悪魔の牙紋!」

天使のアナウンスにより、グラムのチップが二倍に。


「よっしゃー! 俺は運を持ってるって思ってたぜ!」


「ふむ……今こそ、未来の星を読むべき時か」

セレノが静かにマジックロードを手にしたその瞬間、天井から雷のような光が落ちてきた。

「カジノ・ネフェリムにおいて未来視は禁止されております」


姿を現したのは、翡翠の鎧に身を包んだ《監視天使アザリエル》だった。表情は微笑んでいるが、その背後には数本の雷槍が浮かび、軽く警告を発している。


「……失礼」セレノはそっと杖を収めた。「少々、興が過ぎましたな」


リュウジが肩をすくめる。「あっぶねー……セレノ、あんた、あと1秒遅れてたら全員強制ログアウトだったぞ、たぶん(でも、いまはログアウトできんから……やばいロストか)」


一方、リュウジはリュウジで着実にギルズを増やしていた……ように見えたが、カジノの魔力は甘くない。


「ダブルアップ、成功……よっしゃあ! からの……もう一丁!」


次の瞬間、赤の2が出て、彼のギルズは一瞬で半分に。

「な、なんでだよ……今度こそイケる! 次は赤の偶数……!」


そのまま泥沼にハマり、セレノとともに全額失って放心するリュウジ。


グラムも気づけば負けが込み、ルーレットの前で腕を組んだまま動かなくなっていた。

「……くそっ。確率、数字、すべて揃ってたのに。どうしてだ?」


その時、ファルがそっとささやいた。

「ねえ、グラム。運命のルーレットに、必勝法はないんだよ。なぜなら——それは『遊び』だから」


グラムがふっと笑う。

「……そうか。なるほどな。じゃあ、俺はちゃんと遊んだってことだ」


セレノもゆっくりと席を立ち、杖を胸に戻す。

「敗北もまた一興。流れ星のように儚く、だが美しいひとときだった」



テーブルを離れた三人が、ふらふらと合流エリアへ戻ると、すでにリンとヴェルザが何やら金色のコイン袋を手にして笑っていた。


「え……お前ら、もう儲けたのかよ?」リュウジが絶句する。


「へへーん♡」リンが笑顔でウィンク。

「スロットで当てたの。ね、ヴェルザ!」


ヴェルザも涼やかに微笑んだ。「数の論理ではなく、流れを読むのがコツですわ」


「う、うらやましい……!」

セレノが小さくつぶやくが、それもまた旅の彩りだった。

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