4-3 爆買いのアルケミィ通り
——『グランド・アルケミィ通り』に、謎のテンションが響く。
空には幾何学模様のようなガラス天蓋。石畳の街路には、魔導ランプの光が昼夜を問わず煌々と照らされる。ここ《セラフィード中央・グランド・アルケミィ通り》は、東大陸最大のアイテム取引街である。
——そして今、
グラムたちの買い物タイムが『異様なテンション』で幕を開けようとしていた。
*
◆その1:タクマのおすすめ「赤ノートのしおり(レプリカ)」
タクマが指を鳴らす。パッと目の前に魔導スクリーンが開かれる。
「……なにそれ」
とリンが呆れ顔で言ったが、すでにスクリーンにはでかでかと「緊急特番!セラフィード爆買い王決定戦!!!」と書かれていた。
「本気かタクマ……」
「もちろん本気だ! ここはファンタジーRPG世界!ならばそれらしく、アイテム紹介もノリでいく!」
「ひとりずつ、持ちジョブに合ったおすすめアイテムを紹介して、どれが一番『欲しくなるか』競争しようぜ!」
「いや、なんでバラエティになってんの!?」
だが、時すでに遅し——。
「はいはいはーい、視聴者の皆さま、旅の準備は万全ですかァ!」
「今日のおすすめアイテムはコチラァ!」
タクマが豪快に掲げたのは——。
『赤ノートのしおり(レプリカ)』
「え、しおり?」とリンがぽつり。
「違う違う、ただのしおりじゃないの! これはね、思いついたアイデアを『即座に記録』できる超便利アイテム!このしおりに触れながら何かを閃けば、それが自動でノートにメモされるって寸法さ!」
「それ……ディレクター業務にしか使えないヤツっスよね?」とテルキが冷静なツッコミを入れる。
「RPGってのは、戦って、歩いて、出会って、別れて、また歩く……だけど! 一番大事なのは、『いま思ったこと』をどれだけ覚えておけるかだッ!」
——はい、次!
◆その2:グラムのおすすめ「マッスルポーションV」
「俺が紹介するのはこれじゃ!筋肉の奇跡——《マッスルポーションV》!」
カーン!と瓶を掲げてポーズ。
「これを飲むだけで、斬撃力が1.5倍!持続時間30分!副作用は少々の怒りっぽさだけ!」
「副作用あんのか!」
リュウジが即ツッコミ。
「いや、でもあれだな、グラムさんが使ってると安心感あるな……」とテルキも頷いた。
「これで俺のヴォルテックエンド《雷破》も30分連続攻撃できる!」
「30分連続してるってことは、敵に効いてないのでは!?」
◆その3:セレノのおすすめ「星辰の瞳石アストラル・アイ」
「我の番か……ならば、これを見よ」
セレノが差し出したのは、夜空を閉じ込めたかのような漆黒の宝石。
「これは『星辰の瞳石アストラル・アイ』……装備することで一度だけ、敵の魔法を『未来視』して無効化できる」
「一度だけ!?」
「星を読む者には、未来が一度だけ視える。それで十分だ」
全員「……かっこいい……」
ファル「ずるいっ!セレノだけマジメ担当なんて反則だよ!」
◆その4:ヴェルザのおすすめ「クリムゾン召喚紙」
「芸術と美に生きる私が選ぶのは……これよ!」
ヴェルザがくるくるとスチームスケッチを回しながら取り出したのは、鮮やかな赤い紙。
「これは特製《クリムゾン召喚紙》! ここに召喚獣を描きこめば、10秒後に自動で顕現する『時限式召喚術』!」
リン「えっ、それめっちゃ便利じゃないですか!?」
「そうでしょう? 突入前にセットしておけば、タイミングを読んで『ガルム爆誕』できるのよ!」
「発想がトラップカードだな……」
◆その5:リュウジのおすすめ「スクリプト・ジェネレーターα」
「俺はこれだな……《スクリプト・ジェネレーターα》。コード1行で、状態異常魔法を簡単生成できるツールだ」
「マジかよ!?」
「要はテンプレ化した関数を挿入できる。しかもバグらない。プロトタイプは俺が組んだしな」
セレノが遠くを見る。
「……我の魔術よりスマートなのでは?」
「そりゃ現代開発技術だからな」
ヴェルザ「でも、詠唱のロマンがないのよね」
「星と鉄道は男のロマン……でしたっけ?」
◆その6:リンのおすすめ「きせかえ召喚バッジセット」
「はいはい!私もオススメあるよ~!」
リンが勢いよく出してきたのは、まさかのカラフルな缶バッジ。
「これ、召喚獣の《きせかえ召喚バッジセット》! 召喚するときにバッジを装着しておくと、着せ替えた衣装で出てくるの!」
タクマ「完全に趣味じゃねーか!」
「着ぐるみ仕様の《黒竜ゼルギウス》とか、めちゃくちゃ可愛いんだから!」
「破壊力台無しだよ!」
◆その7:テルキのおすすめ「バグ避けチューインガム」
「えーっと、じゃあ僕からは……これっス」
そう言って差し出したのは、銀色の個包装ガムだった。
「《バグ避けチューインガム》っス。噛むと集中力がアップして、バグの気配が見えるようになるらしいっスよ?」
「それ、デバッガー専用すぎる!」
「ガム噛んで《ギガバイト級》のバグ発見するって、おかしいでしょ!?」
ファル「でも、ちょっと欲しいかも……お腹すいたし……」
「お腹すいただけかよー笑」
◆その8:ファルのおすすめ「妖精用つまみ食いポケット」
「はーい!アタシのオススメはこれっ!」
ファルがぴょこっと飛びながら取り出したのは、小さな宝石が付いたポシェット。
「《妖精用つまみ食いポケット》! なんとこれ、アイテムスロットに入ってる食料アイテムを、無消費で“ちょびっと”つまみ食いできるの!」
「ズルい!」
「毎回10%だけどね! でも、おやつ感覚で回復できるよー!」
「それドロボーじゃないの!?」
*
「というわけで……選べないよな?」とタクマ。
全員「選べない!」
「よし、じゃあ全部買おう」
全員「爆買いかよ!!」
レジのカウンターで、長蛇の列ができる。
アイテムの名前が読み上げられるたびに、周囲の客たちがざわつく。
「えっ、今、マッスルポーションVを10本……!?」
「うそ、《星辰の瞳石》ってあの高級魔石でしょ!?」
「きせかえバッジって、1個5,000ルクス!? 何体分買ってんの!?」
店員「お、お会計……六英雄様ご一行ですので、すべて半額でございます!」
\ワァアアアアア!!/
店内が一瞬、拍手と歓声に包まれた。




