4-1 セラフィード街歩き~前編
——魔導列車レムナントはタクマたちを乗せ、ガイラム帝国領《煌駅エリュシオン》へと高速で向かっていた。まるで彗星が伸び伸びと宇宙を渡るかのように、何の迷いもなくまっすぐに進む。
そして、その中継地でもっとも巨大なターミナル駅とされる《多次元交差都市セラフィード》へと停車した。停車時間は約3時間だという。
「着いたぞーっ!! ついに文明の光だーッ!!」
誰よりも先に改札をくぐり抜けたのは、テンションマックスのテルキだった。
黒と金の魔導式鉄骨で組まれた駅舎からあふれ出すのは、眩しいほどの魔光ネオン。蒸気の噴出音、商人たちの怒鳴り声、踊るような音楽と、焼き立てパンの香ばしい匂い。
すべてが生命力に満ちていた。
「この都市……人と魔術が交差してる……」
リュウジは周囲を見渡し、まるでコードの構造を読むように、街の仕組みを分析していた。
「へえ〜、思ったよりずっと活気があるじゃない。さすが《セラフィード》。魔導商業都市の名は伊達じゃないわね」
淡いピンクの外套に身を包んだリンが、目を輝かせながら微笑む。
すぐ隣には、妖精ファルがふよふよと浮かびながら、ソーダ飴を頬張っていた。
「で? なに買うの? あたし、買い物大好きー! 目的? うーん……可愛いやつ全部!」
「俺たちはちゃんとジョブ装備を買いに来たんだからな」とタクマが釘を刺すが、目は既に「刀用ホルスター専門店」の看板をロックオンしていた。
*
◆第一の店:戦士・鍛冶士向け防具ブティック【インゴット・シック】
ひときわ重厚な外観の店内に足を踏み入れると、ずらりと並ぶのは鋲付き革鎧、肩パッド、鉄製ガントレット、さらには『一見すると野球バットに見えるが鍛冶士用のハンマー』など、実用性と異世界ファッションの見事な融合だった。
「おお! この腰巻、爆裂火山のマグマ布を使ってるっスよ! マジで耐熱2000度っスよ!」
テルキがハンマー片手にテンション高く叫ぶ。いつの間にか自分のスチームハンマー用に色を合わせた赤銅の作業服を着せられていた。
リュウジはと言えば、店の奥で黙々と魔術士ローブを選んでいた。深紫のロングコートに、星図を模した金糸の刺繍。袖の中にコードリストを隠せる仕掛けまである。
「コード入力のモーションに干渉しないデザイン、合格だな……。よし、これで詠唱速度0.8秒短縮だ」
「オタクか!」とツッコミを入れるのはタクマだが、彼もすでに《三日月ムネチカ》専用の刀ベルトと、和風の胸当てに身を包んでいる。
「俺も文句言えた立場じゃねぇか……」
その横で、店員に押し切られるようにして、リンが試着室から出てきた。
「ど、どう……かな……?」
まばゆい。
その衣装はなんと、『純白のウェディングドレス風・召喚士ローブ』。レースの中に魔法陣が織り込まれ、袖のフリルから魔力の光がほのかに漏れている。
「は? え? リンさん、それ、え? 着るの!? 実戦で!?」
「マジで結婚式!?」
「うわ、似合ってるのがまたムカつく!」
三者三様の反応を背に、リンは顔を真っ赤に染めて呟いた。
「ち、違うのよ? 試着だけって言われて……!この店、ぜんぶラブロマンス・ファンタジー仕様だったのよ!」
すると。
「なら、アタシも!」
ファルがドンと妖精用マネキンの隣から飛び出した。
キラキラの銀のドレス。妖精サイズなのにフリル三重。ベール付き。しかもマジックテープで羽根穴が開いている完璧仕様。
「ふたりとも似合いすぎじゃろ……」と、通行人の誰かがつぶやいた。
*
◆ 第二の店:召喚士専門店【ソウルスケッチ・アトリエ】
その次に向かったのは、魔導インクと召喚獣タトゥーの専門店。
「こっちは魔法墨、あっちは実体化ペン……あっ、これ!《スピリット・スプレー》って召喚獣の気配だけ描けるやつじゃない?」
リンはもう夢中だ。
リュウジとテルキが装備ショップに遅れて到着すると、リンとファルは既に《おそろいの黄金ドレス(召喚士用)》を魔導試着中。
フレームスケッチも、エングレーブ柄になっていた。
「ふたりで召喚獣を描くの、楽しそう!」
「でしょでしょー! ファルの筆はマジックでね、たまに火花出るんだよ!」
隣ではタクマがそっと刀を握りしめていた。
「俺だけなんか……装備、地味じゃね?」
*
◆ 最後に立ち寄った帽子店【セラフィード・ヘッドギアズ】
「おお! 魔術士向けフェルト帽!」
「なんすかこれ、羽根付きターバンって!?」
「これ……戦士なのにベレー帽!?」
リュウジが試したのは、深紅の縁に銀の星飾りがある、いかにも魔術士然とした一品。
テルキはなぜか『カウボーイ型の鍛冶士キャップ』を買わされていた。本人はなぜか気に入ってる。
「いや、これ、思いのほか軽いっス。風通しもいいし、打ち直しのときブレない。意外に高性能っスよ」
「召喚士はやっぱり……とんがり帽子ね!」とリン。
ファルはというと。
「アタシはコレ!」
彼女が被ったのは、小さなシルクハット。しかも、花飾り付き。
「……完全にマジシャンじゃん」
「違うもん!サーカス団長にあこがれてた妖精もいるんだよ!」
そんなこんなで、買い物袋は山のように増え、財布の中身はあらかた消え失せた。
タクマたちは、グラムたちとの待ち合わせである《アルケミィ通り》へと向かった。




