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悪役令嬢は死ぬことにした【短編版】

本作には長編版([日間] 異世界転生/転移〔恋愛〕ランキング1位:4/18_20)がございます。

「リナ・アンジェラ・ジョーンズ公爵令嬢。君との婚約の件だけど」


 私の婚約者である、王太子のレイことレイモンド・ウィリアム・アルデバランが、サラサラの前髪を揺らし、こちらを見た。


 カウントダウンのチャリティーコンサートの後に行われるパーティーに合わせ、いつもおろしている前髪は、左側を後ろに流している。そのことで、キリッとした眉毛が見えていた。細身のウエストシェイプされた濃紺のテールコートは、彼の脚の長さと長身を際立たせ、実によく似合っている。


 何よりも。


 アクア色の澄んだ碧い瞳は、本当に宝石みたいに美しい。


 その瞳に映るリナもまた、とても美しかった。


 波打つくようなプラチナブロンドに、新雪のような肌、紫紺色の瞳。首も手足もほっそりしているが、弾力と張りのあるバストに引き締まったヒップで、どんなドレスも着こなせる。


 この日のパーティーのために仕立てたロイヤルブルーのシルクのドレスは、そんなリナのメリハリボディにピッタリだった。


 しかし美貌のリナを見ていても、レイモンドの顔は……真剣そのもの。


 そう。真剣な表情の今、いつものえくぼは見えない。


 朗らかな笑顔の時。

 レイモンドの頬に浮かぶえくぼ。

 でも彼はこれから私に婚約破棄を告げ、そして断罪を行うのだ。


 笑うどころではない。


 最期に見るレイモンドの顔は……残念ながら笑顔ではないのね。


 同い年であるレイモンドと、初めて顔を合わせたのは、間もなく四歳になる時。そして五歳になると私は王宮で暮らすようになり、毎日のようにレイモンドと顔を合わすようになった。


 いつも笑顔で、そこにはえくぼが見え、それは人懐っこさを感じさせた。


 皆がレイモンドの周りに集まり、彼は人気者。

 そして王立アルデバラン学園に入学すると、レイモンドのそばにヒロインが現れた。


「ジョーンズ公爵令嬢。話、聞いているかな?」


 普段は私をリナと呼ぶが、(おおやけ)の場では「ジョーンズ公爵令嬢」とレイモンドは私を呼ぶ。


 王太子という立場。礼儀をわきまえた行動。

 レイモンドはいつだって完璧な王太子だった。


 どれだけ完璧であっても。

 ここは乙女ゲームの世界。

 レイモンドはどうしたってヒロインにロックオンされたら、落ちる(攻略される)しかない。


 そして。


 その美しく整った顔で冷たく告げるのだ。


「貴族は名誉を重んじます。ジョーンズ公爵令嬢が、ソフィー・ベネット男爵令嬢に行った悪事の数々は、いたずらなどの域を超えている。ベネット男爵令嬢は、あやうく死ぬところだったのです。王太子の婚約者でありながら、罪を重ねた。僕の顔にも泥を塗ったのです。これは不敬罪に該当すると考えます。ゆえにジョーンズ公爵令嬢。君は死罪相当であり、次の日曜日。宮殿前広場で絞首刑に処す」


 このセリフを言われたら、完璧に詰む。


 そうなる前に。


 予定調和で悪役令嬢になるなんてばかばかしい。

 シナリオの強制力だか、見えざるゲーム世界の抑止力とか、そんなものには屈したくない!


 ぎゃふんと言わせたい。

 私を悪役令嬢に仕立てようとするこの世界に!


 ドレスのスカートのポケットに忍ばせていた小瓶を取り出す。


 悪役令嬢にならないための努力も。

 断罪回避行動も。

 ことごとく失敗している。


 そして今日と言う日の婚約破棄からの断罪も。

 避けられない流れ。

 だってこれが乙女ゲームの世界で定められたシナリオの進行だから。


 それならばこれが最期の反逆だ。

 どの道、断罪されたら絞首刑。死ぬしかないのだ。

 しかも宮殿前広場で絞首刑だなんて。


 前世では平民だったが、転生したこの乙女ゲームの世界では、公爵令嬢として成長したのだ。しかも王太子の婚約者として、厳しい王太子妃教育にも幼い頃から耐えてきた。


 礼儀もマナーも教養も。すべて身に付け、この国で最高の令嬢(レディ)と言われたリナが、公衆の面前でみっともなく涎をたらして死ぬなんて、耐えられない。


 それならば断罪される前に私は死ぬ。


 取り出した小瓶の栓を取ると、一気に飲み干す。

 今、飲み干したのは劇毒だ。


 鼓動が激しくなり、全身が熱くなる。

 脳がカッとし、めまいも感じていた。


 まだ十六歳になったばかりで、リナはまさに花の盛りだった。こんな風に死ぬのは不本意ではあるが――。


「リナっ!」


 レイモンドの叫び声が聞こえ、瞼が閉じる。

 世界は闇に包まれ、無音の世界へ突入する。


 悪役令嬢、リナ・アンジェラ・ジョーンズ公爵令嬢、十六歳。王太子に婚約破棄され、断罪される寸前に劇毒をあおり、死亡。


 悪役令嬢が即死することで、王太子とヒロインのエンディングがどうなったのかなんて、知るわけがない。ただ、私を悪役令嬢に仕立てようとするこの世界をぎゃふんと言わせ、ざまぁすることはできたと思う。


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悪役令嬢は死ぬことにした
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