第三話
翌日、なぜか私服の受付嬢に案内され、
数件の中古住宅を内覧させて貰った。
豪華な御屋敷から、馬小屋のようなバラックまで豊富にあった。
だが、どれもピンとこない。
屋敷は広すぎて手に余るし、
ボロ小屋は直すより建てた方が早そうだった。
そんな中、最後に案内されたのが、
城下町の一角にぽつんと建つ、
「廃業した雑貨屋の跡地」だった。
看板は色あせ、扉には錆びた鈴がぶら下がり、
中を覗けば──
「おぉ… これぐらいが、ちょうどいいべ」
土間には使われなくなった木箱と什器が山積み、
奥には小ぢんまりとした居間と台所、
そして二階には物置と寝室跡。
確かに古い。だが──
なんとなく、“手を加えたくなる空気”が漂っていた。
…が、問題もあった。
建物が全体的に…少々、傾いている。
どの位かと表すならば、
車椅子用のスロープ…
が床面だと思えばいい。
そんな感じだった。
おっさんは家の周りをうろうろと確認し、
長年の経験と勘で、原因を探った。
軟弱な地盤による沈下ではない。
地下水などに影響される、
盤ぶくれ…でもない。
「なんかおんな」
と地面に耳を当てるが…
モンスターなどが潜ってるわけでもなさそうだ。
とりあえず、規模も造りも及第点は超えていた。
なので——売買契約を結んだ。
昨日の稼ぎが、ほぼ綺麗に消えた。
一応この建物はギルド管理の空き物件らしく、経年劣化こそあるが、
窓を開けた瞬間にホコリが舞い上がる…といったこともなかった。
支払いを済ませたおっさんは、まず2階の小部屋に取りかかる。
物置として使われていたスペースに、古い木箱とコンパネで即席の箱型ベッドを拵える。
そこに、塔から持ち帰っていた砂漠の砂をたっぷりと敷き詰め、シーツをかける。
そして、巨大熊の毛皮を敷けば——
「……これで、娘用のベッドは完成っと」
静かに寝転がるトゥエラとテティスを見て、ふっと口元がゆるむおっさん。
おっさんは、ベッドではなく——布団派閥の議員である。
理由は明白。枕元に、酒と煙草を置けるからだ。
薬草採集のついでに森で拾ってきた素材たちが、ここで役立つ。
床に敷くのは、巨大舞茸。
傘の裏側がもふもふで、適度な弾力がある上に通気性も抜群。汗も吸う。
そして掛け布団は、タンポポ。
無数の綿毛を集め、シーツに包んで端をチクチク縫えば——
「……これで、完成だべ」
あとは酒を置いて、煙草に火をつけるだけ。
床の微妙な勾配が気になりはするが、まぁ、それも“味”ってことで。
おっさんは昼酒をあおり、陽だまりのなか昼寝を楽しむ。
——そうこうして深夜。
昼寝の影響か、やけに目が冴える。
ゴロリと寝返りを打ったそのとき——
「……ん?」
ググッと、何かに床を持ち上げられたような感覚。
警戒しながら部屋を見渡すも、オバケの類はいない。
ただ、床下から……妙な、圧迫音のようなものが聞こえる。
おっさんは腰袋からバールを抜き、適当に床板を剥がしてみると——
そこには、
“タケノコ”が、いた。
ひょっこり顔を出し、目が合った。
基礎——と言っても、日本の建築技術には程遠い。
「岩の上に、土台を置いただけ」
そんな、ざっくりした造りだった。
そしてその“岩”。
建物を支える要ともいえる巨岩を……
タケノコが、下から——おっぺしていた。
ぐいぐいと、力強く、執念深く。
“芽吹く”というより、“押し上げる”に近い。
もはや建築の敵だ。
「なんだおめら?くっちめーぞ」
何故か生えてる両手をバタつかせ、焦るタケノコ達を…
基礎が沈下し過ぎないように気を払いながら、スコップで収穫してゆく。
床下はかなり狭いのだが、
ぼてっとした身体にみえるおっさんは、
狭小作業もプロフェッショナルだ。
七寸もあれば大抵の作業が可能だ。
せっせとタケノコを収穫し、
汚れた体を風呂で流せば…
晩酌の時間だ。
タケノコの泥を洗い、先っちょを斜めに切り落とす。芯まで切らないよう、縦に1本包丁を入れる。鍋に水をはり、赤唐辛子と米ぬかを入れて火にかける。煮立ったら火を弱め、湯を足しながら、しばらくゆでる。竹串がすっと通るようになったら、火を止め、そのまま冷ます。包丁目を手がかりに皮をむき、ぬかを水洗いしてしばらく水にさらす。穂先を縦6つ割りに。下の方はだいたいで半月切り。かぶるくらいの湯に酒を加えて煮る。砂糖を加えてさらに煮る。森土竜のトゲを布で包んでぶち込み、煮る。醸造魔石、発酵魔石を順に入れて煮て、火を消す。乾燥薬草はもどしてザク切りにし煮汁加えて火にかけ、色が鮮やかになるまで煮る。火を止め、味を含ませ、器に移して木の芽を添えれば完成。
大人のおつまみだ。
その後…娘達にめっちゃ食われた。




