★第六章 第一話
旅というのは楽しいものだ。
日常の仕事や義務や責任から解放されて、
羽を伸ばすことが出来る。
とても有意義な時間だ。
だが…旅が日常になった場合、
それはさほど楽しくない。
やはり義務や責任に追われていても、
家があり、何もしなくてもいい時間が多少ある。
そのほうが、自由を実感出来るのだ。
そんな訳でおっさんは…
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「街で家でも借りてぐったりしたいべ」
王都に辿り着いた。
そもそも王都を目指したのは、
トゥエラの「しれん」を調べるためであり——
もう、用事は済んでいる。
それでも、おっさんは帰れない。
適当に旅してきた身だ。
地図もないし、ルートも記録していない。
「毎朝、朝日が昇る方向に進んでいけば——
いずれ家に戻れるだろう」
そう信じていた。
だが、惑星には——
自転と公転がある。
おっさんの家は、
現在、行方不明である。
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だったらどうするか?
着いた場所で生活を成り立てるしかない。
なので…
冒険者ギルドを訪ねた。
ギイィィ…という、
不快な音を聞きたくない為、
浸透潤滑スプレーを吹いてから、
スイングドアを押し開ける。
頼もしい護衛に両脇を固められ、
おっさんは受付嬢のいるカウンターへ。
虹色に光るカードを差し出した、その瞬間——
どういう仕組みか、二階から階段を駆け降りてくるライオン。
「この冒険者ギルドの——
責任者を預かる、セザールだ」
——ライオンが、喋った。
「モックルドをリゾートに変え、
ヨイドレーを猫の楽園とし、
オラガノの廃坑山に神の井戸を掘り…
虚無の森に家を構え、
砂漠の遺跡を——完全攻略…………
だと?」
謎技術の謎カードは、
おっさんの行動をすべて記録しているらしい。
その内容を読み取ったギルマスは、
頭を抱え、よろめいた。
……数歩あとずさりした気もする。
「一文無しなもんで、何か仕事を…」
と懇求するおっさん。
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今夜の宿代もない。と、
巨大な鮭の剥製を床に置くおっさん。
遂にブリッヂしたまま失神するギルマス。
ジョッキを床に落とす男冒険者達…
笑顔で宿舎へ案内してくれる受付嬢。
娘達に魅せられ目を♡にする女冒険者達…
混沌を極めた冒険者ギルドの夜は耽る…




