第十一話
「しれん おわったー」
無邪気にはしゃぐ幼女。
おっさんは理解が追いつかず、
とりあえず腰を下ろす。
「え、なんだったの?」
と尋ねるが…
「ん〜?」
ニコニコと要領を得ない娘。
…まぁいいか。
何百年かかったのか知らんが、
トゥエラの願いは叶ったんだ。
「で、どうする?」
なにやらはしゃぎまくる二人の子供に、
おっさんは問いかける。
あと15000階登るのか?
10000階降りて帰るのか…
テティスは言う。
「俊敏の魔法を使い続ければ、ペースは速くなりますが…」
だがそれは、彼女の尊厳に関わる。
ふーむと思案し…
あ…
思い出した。
「階段登る君あったじゃん」
かつて登った、あの離島の灯台。
確か——天井の張り替え工事だったか?
船着場から、数百段の急勾配。
それを越えて、今度は灯台内部の螺旋階段。
そこを、石膏ボードを二枚ずつ担ぎ、延々と往復した。
あれは…ほんとに、過酷だった。
で、ようやく工事が終わる頃になって導入されたのが、
あの【階段登る君】。
竣工後の俺の腰袋を、船まで黙々と運んでくれたっけ…
コンピューターをセットすれば延々と動いてくれる、キャタピラが特殊で階段も登れる。
自動運搬機があったことを。
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俺は彼を呼び出し、簡単なベンチを拵えた。
そこからは早かった。
夜も昼も、
メシ中も、寝てる時も——
キャタキャタキャタキャタ…と、
我々を、黙々と運んでくれた。
そしてついに、辿り着いた。
【25000f】
なんか既視感のある鶏——コカトリスを倒すと、
なぜか出てきたのは、お子様ランチ。
しかも、二人分。
……そして俺の前には、
一升瓶と塩辛。
めちゃくちゃ旨かった。
舌の上に乗せ、コリッと噛む。
すると背後から、旨味の大津波が押し寄せてくる。
磯の香り…それだけじゃない。
まるで、この世のすべての幸せが口の中で踊りだした。
酒をコップに注ぎ、くいと含むと——
地平線の果てから、満開の桜が咲き誇った。
一瞬、時が止まった——
気がつけば、俺は【定礎】の前にいた。
横を見れば、娘たちも揃って立っている。
「おもしろかったー!」
「また訪れたいですね…」
「ぃゃ……」
——こうして、おっさんたちの
果てしない塔を巡る冒険は、
ひとまずの幕を下ろした。




