第九話
お尻痛いわよ…
おっさんのケツがピンチである。
割れそうだ。
割れてるが。
あんな張力で射室されて、
事前にパイプにシリコンスプレーを噴き、
摩擦を減らしたとしても…
単管パイプにまたがり発射された
おっさんの臀部は大惨事だった。
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水は完全に排出され、
墜落防止ネットも腰袋に送り返した。
熊はピクリとも動かない。
だが念のため、トゥエラが無言でその首を落とす。
静かに、確実に。
「疲れたし、腹減ったなぁ……」
……が、熊肉はちょっと……
食えなくもないが、野趣が強すぎる。
子供たちには、まだ早い味だ。
ふと視線を横にずらすと——
金色の鮭が、再び腹が張っていた。
まるで、供されるのを待っていたかのように。
ナイフを少しだけ入れてみると——
山吹色に輝くイクラが、
とろり、と零れ落ちた。
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簡単にできる、だけど豪華なご馳走——
おっさんは、まず米を炊く。
伝家の宝刀で、鮭を捌いて刺身にする。
炊きあがった白米には、酢と砂糖と塩を加えて手早く切るように混ぜる。
うちわで扇ぎながら、ふんわりと酢飯が仕上がる。
でっかい丼に酢飯をこんもり盛りつけ、
イクラを“これでもか”とこぼれるほど乗せて、
その横に艶やかな刺身を添えれ最後に卵黄を落とせば——
『黄金サーモンイクラ丼』の完成である!
子供たちは、夢中でスプーンを動かしながら、
「おいしい!」を何度も繰り返す。
おっさんはその様子を横目に、
徳利からゆっくりと熱燗を注ぎ、ひと口。
——五臓六腑に染みる。
たまに、テティスが気まぐれに「アーン」とイクラを差し出してくる。
素っ気ない表情のくせに、ちょっと照れてるのがまた可愛い。
——そして、空が、染まり始めた。
透明なはずの空が、どこまでも澄んだ金色に焼かれてゆく。
地上で見たそれよりも、ずっと静かで、ずっと広い夕焼けだ。
その色は、トゥエラの髪よりも濃く、
テティスの瞳よりも淡く——
ただ、しずかに、染まっていた。




