第十三話 炭鉱おでん屋オープンである
ようやく、穴の底に到着した。
俺は補助具を外し、腰袋から出したウインチ付き二連梯子を伸ばす。
ギギギ……と鈍い音を立てながら、慎重に立てかける。
これで、帰りはロープを使わずに楽に登れる。
「……よし」
小さく呟き、ポータブル照明を取り出して手早く設置していく。
照らし出された景色は──
10メートル四方くらいの、がらんとした広場だった。
埃っぽい空気の中、崩れかけた小屋のようなものも見える。
たぶん、休憩所か、鉱石を仮置きする作業小屋だったのだろう。
そして広場の奥の壁には、いくつもの小さな横穴が穿たれていた。
おっさんが、中腰でようやく通れるくらいのサイズだ。
「……採掘する穴か」
ぽつりと呟く。
人工的な削り跡も残っている。
きっと、昔の鉱夫たちが手掘りで、鉱脈を求めて広げていった通路なんだろう。
「……どこまで続いてるんだっぺな?」
俺は、娘たちと顔を見合わせた。
この先には──何が待っているのだろうか。
魔物の気配も──今のところはない。
「……じゃ、拠点つくるか」
俺は腰袋から異世界感ゼロな現場事務所を取り出し、手慣れた手つきで基礎を微調整し、仮設ながらもしっかり設置する。
風呂も仮設トイレも準備し、一息つく。
イグアナには、たっぷりの餌と水を用意しておいた。
これだけあれば、数日は問題ないだろう。
「さぁて……まずはメシだな」
娘たちの期待に満ちた目を受けながら、
俺は再び、システムキッチンを召喚する。
どんな状況だろうと──
腹が減っては、戦はできねぇ!
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マンドラゴラの皮を剥き、一寸幅で輪切りにし面を取って十文字の隠し包丁を。
クラゲの魔物は塩で揉み洗いし三角に切る。
クラゲの足も同じようにし適当に切って結ぶ。
海蛇は斜めにぶつ切り、
針鼠は革を剥いて四つに切り、水に晒しておく。
イソギンチャクはぶつ切りで串を刺す。
油揚げは半分に切って袋状にして、
うずらの卵と
モチを入れ、
串で縫うようにする。
昆布は水で戻して帯状に切って結ぶ。
鍋に水と昆布を入れ火にかけ…
煮たったら、
魔石汁、発酵魔石汁、粉魔石、粉末魔石、破砕魔石を入れ、
ジャガイモ以外のネタをぶち込んで、蓋をしてしばらく煮込む。
その間に、イベント用テントと会議用折りたたみテーブルとパイプ椅子を設置し、照明を調整し少し薄暗くする。
夜道の屋台風の雰囲気を出し、
頃合いをみてジャガイモも投入して、
娘達を呼ぶ。
「らっしゃーい」
炭鉱おでん屋オープンである。
大はしゃぎである。
トゥエラは口いっぱいにほおばり、頬をぷくぷく膨らませながら、目をキラキラさせている。
テティスはというと、お上品に串をくるくる回しながら、しっかり熱々のおでんを味わっていた。
おっさんはといえば、湯気の向こうで赤ら顔。
徳利とおちょこを片手に、酒が止まらない。
炭鉱の底、ほの暗いイベント用テントの中。
テーブルには湯気の立つおでん鍋が鎮座し、三人の笑い声が静かな岩壁に反響していた。
盛り上がった拍子に、テティスがなぜか謎の歌を歌い出し──
トゥエラが調子に乗ってカラシを丸ごといってしまい──
「ぶはぁっ!? なにこれ!? しぬぅぅぅ!!」
と、地面をのたうち回る。
おっさんは大笑いしながら、おちょこをぐいとあおる。
「ハハッ、そりゃあ効くだろうよ……って、待て! 水飲むな! 余計ひどくなるぞ!」
そんな、賑やかで愉快な夜だった。
……夜かどうかなんて、この場所じゃ知る由もないけれど。
それでも、闇の底にぽつりと灯る明かりの中、三人の心はぽかぽかと、あたたかかった。
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トイレも風呂も済ませ──三人で川の字になって眠りにつく。
どこか懐かしい温もりに包まれながら、おっさんは静かに目を閉じた。
一瞬、前世の家庭が、脳裏をよぎる。
それでも──今ここにある、小さくも確かな幸せを抱きしめるように。
両腕を広げ、娘たちを腕枕にしてやると、
そのまま、ゆるやかに──意識が沈んでいった。




