第十一話 だから道が太かったわけか
娘達に盛り付けてやり、
…気がつくと囲まれていた。
一様にボロ着を羽織り痩せこけた年寄り。
若そうな人も居るには居るが、皆小汚く区別もつかない。
だが、全員の目が…鍋を睨み殺している。
雰囲気としてあえて言うなら、
街中に突然現れたゲリラライブに集まる群衆だ。
折りたたみの机と椅子をジャンジャン召喚し並べ、
ラーメンを盛り付け配ってやる。
あまりの濃厚さに鼻血をたらしながら貪り啜る人々。
【ラーメンフェス in 異世界】
想定外に集まった群衆に戸惑いながらも、
おっさんはスープを拵え、麺を茹で続けた。
油煙にまみれ、汗と加齢臭を背負い込み、
気がつけば何百食盛ったかもわからない。
――そして。
ふと顔を上げると、辺りは屍の山だった。
生きてはいる。
ただ、誰も彼も──
満腹で倒れ伏し、動けなくなっているだけだった。
おっさんも、疲れ果てた。
システムキッチンを片付け、
工場扇を止め、
ボロボロの身体を引きずるようにシャワーへ向かう。
異臭まみれの全身をゴシゴシ洗い、
ようやく人間らしい匂いに戻ったところで──
布団にダイブ。
軽めにしか食ってないのに、
胃が……胃がもたれてやがる。
ポーチから胃薬を取り出し、
冷えた焼酎《ミニ五郎》で無理やり流し込む。
「うぅ……胃に……効け……」
ぼそっと呟き、
おっさんは、そのまま目を閉じた。
翌朝。
どっちに移動するか思案していると──
村長を名乗る老人が、龍車を訪ねてきた。
「昨夜は、村の者たちが世話になりましたじゃ……」
ぺこりと頭を下げる村長。
よく見ると──アブラが効いたのか、肌がテカテカしている。
「いえいえ、ついでだったんで。気にしないでください」
俺は、乾いた笑いで応じた。
……いや。
夕食の支度の“ついで”で、
ラーメンフェスを開くやつがこの世にいるだろうか──?
心の中で、そっと自分にツッコんだ。
お茶を出し、椅子をすすめると──
村長はなにやら語り始めた。
昔はこの村も、そこそこ栄えていたらしい。
山には立派な鉱山があり、
そこから魔石が算出されていた──とか。
だが、モンスターが巣食うようになってしまい、
鉱山には近づけなくなった──とか。
要点をまとめれば、そんな話だった。
……まぁ、とにかく、
やたら長い話だった。
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「その鉱山ってやつ、見に行ってもいいか?」
そう聞くと、
村長は「ああ、好きにすればええ」とだけ言い、
腰を曲げたまま帰っていった。
俺は、ぼそりと呟いた。
「……だから道が太かったわけか」
村から山へ向かう道は、
かつては整備されていたのだろう。
龍車が、余裕ですれ違えるほどの幅があり──
真っすぐに、山脈へと伸びていた。
魔石──と聞いて、興味が湧いた。
化け物の体についてる魔石は、どれも味が良かった。
たまに、使い道のわからないヤツもあったが──
大体は、スーパーで普通に買ってた調味料に近かった。
じゃあ、鉱山の魔石は?
岩肌が、そのまま魔石だったりしたら──
「……食えるんかねぇ……」
ぽつりと呟きながら、
俺は、未知の食材への期待で胸を膨らませた。




