第十話 五郎系マシマシコテコテ全部乗せラーメン
蛮族たちを見送り、俺たちも旅を再開した。
これといって何もない道を……数日走っただろうか?
景色が少しずつ変わってきて、左手のほうには山脈が聳え立ち、
右手のほうには海の見える平地が広がっている。
やがて、道は分かれた。
片方の道には、馬車の轍が幾重にも刻まれている。
もう片方は、草が茂り、まったく人の通った痕跡がない。
俺は、馬車を停めた。
そして、蛮族たちに使わせたあの鉄筋の余りを、地面に立てる。
そっと手を放すと──
ぱたん。
鉄筋は、左へ倒れた。
「左か」
俺はぼそりと呟くと、手綱を取り直した。
「おとーさん、またへんなの出るかもよ……」
不安そうにトゥエラがぼそっと言った。
テティスは、なぜか目を輝かせている。
「まぁ……どっちに行っても、ぼちぼち行くしかねぇさ」
馬車は、山脈の方へ向かい、ゆっくりと動き出した。
海から吹く潮風が、俺たちの旅路を撫でていった。
それからまた、数日進んだだろうか。
山脈はぐっと近くなり、もう手を伸ばせば届きそうなほどに見える。
周囲には、ぽつぽつと畑らしきものも現れはじめた。
そしてついに──
一軒の民家を見つけた。
「おとーさん、あれ、人の家かなぁ?」
トゥエラが、イグアナの背に乗ったまま指をさす。
「かもな……」
俺は、進みながらゆっくりと目を細める。
あばら家──というには、そこまでひどくはない。
だが、明らかに古びた、くたびれた家だった。
煙は……上がっていない。
生活の気配も、遠目ではよくわからない。
だが、人の痕跡が残っているだけで、ここ数日の荒地続きからすれば、奇跡のようだった。
「とりあえず、挨拶してみっけ?」
馬車をゆっくりと近づけた。
「こんにちわー!」
ドアを叩くと、中からくたびれた老人が出てきた。
じろっと俺たちを一瞥すると──
「あっちさが村だ」
と、ぶっきらぼうに指を刺し、
そのまま家の中へ引っ込んでいってしまった。
「……不愛想かよ」
トゥエラとテティスも、ぽかんと口を開けていた。
「ま、道案内にはなったな」
気を取り直して、俺たちはまた馬車を進める。
しばらくすると、たくさんの民家が現れた。
ボロ屋…ではあるのだが、不思議と区画が整理されてるような…道も広いし、
アンバランスに思えた。
鍬を担いだ男が居たので聞いてみる。
「旅のものなんだけんども、ここらは宿とかあるんだっぺか?」
おっさんの訛りが酷い。
宿なんてないそうだ。
昔はあったらしいが──と、いろいろ語る村人の顔は寂しそうだった。
道が交わる広場に辿り着き、とりあえず休憩にする。
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龍車から降り、システムキッチンを召喚。
手慣れた手つきで圧力鍋を火にかけ、湯を沸かす。
そこに、鬼──いや、豚肩ロースの塊をドボン!
玉ねぎ、長ネギの青いところ、ニンニク、清酒、砂糖。
なんとなくの勘でブチ込んで、あとは2時間、ほっとくだけ。
……漂う異臭。
工場用のデカい扇風機を回して、空気をぶっ飛ばす。
おっさんは、のんびり昼酒タイム。
焼酎をくいっとやりながら、のほほんと景色を眺める。
──プシューッ!
減圧音が鳴り、鍋の蓋を開ける。
ネギのカスを取り除き、棒でゴリゴリと骨と肉を潰す。
さらに、背脂と追加の肉をドーン!
もう一度圧をかけ、ぐつぐつと煮込み直す。
浮かんでくる灰汁は、丁寧にすくい取る。
このひと手間が、旨さを決めるんだ。
調味料を入れたら、アルコールを飛ばすまでしっかり煮詰め。
最後に、肉塊を引き上げ、スープをさらに白濁させる。
──仕上げだ。
麺を茹でて、湯切りしてどんぶりへ。
その上に、たっぷりの野菜、肉の山、山、山!
濾したコクまみれのスープをドバァッとかけまわし──
「五郎系マシマシコテコテ全部乗せラーメン、完成だッ!!」




