第八話 彼らをスパリゾートのファイアーダンサーに雇用した
馬車は遅いが、快適だった。
自動車と比べること自体がおかしいが、
人が早歩きする程度の速度で、
イグアナはのっそりと進んでいた。
ドラゴンソーセージを挟んだホットドッグを咥える娘達。
イグアナにも食わせてやったら──
なんか、恐れられた。
今、走っている道は、街と街を繋ぐ街道らしく──
たまに他の馬車とすれ違う。
わりと豪華な装飾の馬車も通る。
スパリゾートのお客なんだろうか?
急ぐ旅でもないので、のったりのったりと──
進む龍車の窓から、ぷかっと煙を吐き出す。
焼酎を片手に、景色を眺めるおっさん。
娘達は、トカゲの背中に登り、大騒ぎしている。
薄暗くなったら、道から外れた。
現場事務所を召喚し、今夜の宿とする。
メシは、適当に焼いた肉と米。
トカゲは、バケツ一杯ほど食った。
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辺りの地形は、たまにデカい岩、たまに林、たまに盗賊──
「……なんか来たな……」
小汚い格好の男たちが、わらわらと
プレハブと馬車の周りを伺っている。
おっさんは焦る。
樹海で化け物を殺して捌いて食っていたくせに、
対人となると話が違う。
おっさんは、前世を含め──今まで
人と揉めたことがない。
強気なクレーマー体質のお客様相手でも、
丁寧な説明と真摯な対応でこなしてきた。
最後には、「あなたに頼んで良かった」と
笑顔で仕事を終わらせてきた。
とてもじゃないが──ラノベ主人公みたいに
武器を出して皆殺しにするなんて、できるわけがない。
「おい、お前らは絶対に出てくるなよ?」
娘達に強めに言い聞かせる。
恐る恐るドアを開け──
出た瞬間、すぐ後ろ手に鍵をかけた。
「あんた達、なんの用だ?」
体格のでかい、班長っぽい男に、できるだけ大きな声で話しかける。
こちらに気がついた男たちは……
ゾロゾロと俺を囲うように集まってくる。
怖い……何人いるんだ?
班長らしき男は、目の前まで来た。
──二メートルくらいある。
──ゴッツイ裸に革ジャンを羽織っている。
──手には、鉈っぽいものを持っている。
「金か?食料か?なにが欲しいんだ!?」
死にたくない。絶対に死にたくない。
いざとなれば……
なにを出せばいいんだ?
ラノベみたいに、相手の頭上に重機を召喚するなんて芸当はできない。
腰袋からしか道具は出せない。
ダンプに乗り込んで轢き殺す?
できるわけがない。
「全部だよ…」
班長は鉈を手の上でジャグリングしながら呟く。
「全部ってなんだ?俺を殺したいのか?」
聞くが…
「てめぇになんの恨みもねぇがな…こっちにゃ食いっぱぐれた奴らがいっぺぇいるんだ」
あぁそうゆう。
俺は胸を撫で下ろす。
そんなことかよ。
落ち着いてよく見ると、班長はイケメンだった。
蛮族のくせに、髪にメッシュが入ってる。
鉈を器用に両手でクルクル
曲芸みたいだ。
「わかったよ、お前に全部やるよ。」
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和解した。
丁寧な説明と分かりやすいプレゼン。
今後の展望と向き不向きなど、真摯に応対し、対策を講じ、最適なアンサーに導き…
彼らをスパリゾートのファイアーダンサーに雇用した。




