第五話 ほれ、絶品ドラゴンポトフだぞー!
春がきた。
異世界なので春とは限らないが…
まぁ雪は溶けた。
地面は土じゃなく、巨木の幹なのでぬかるんだりもせず快適だ。
トゥエラとの約束を果たすため、あいつを泣かせないように、おっさんは出発した。
愛しい二人の子供を連れて。
「なんでかんで卵は貰っておかなきゃだめだっぺ」
コカトリスの元へ。
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ガタガタ…ゴトン…
子供達二人をトラックに乗せ、おっさんは相変わらず薄暗いジャングルの悪路を運転している。
陽の光はほとんど刺さないような密林だが、
ここにも春を感じないわけではない。
あちらこちらに色のついた花を見かける。
ぱっと見、南国の頭に飾る花みたいにも見えるが…
近寄ったら、おっさんが丸呑みされそうなスケールだ。
目指す方角は南東。
以前訪れた港町の方向だ。
咥え煙草でハンドルを握り、ガタボコと根を踏み越え、草をひき潰し…
トラックは走る。
卵料理も大好きな娘達の為に、コカトリスの元へも立ち寄った。
相変わらず太々しく小屋に収まっていたが、
バランスボールほどの大きさのひよこもたくさん居た。
二人は大はしゃぎでヒヨコをモフっていたが…
俺はどデカい卵をまた一つ貰い、水中ポンプを駆使して、黄身と白身を分離吸収し、保管しておいた。
腹が減り、その辺でバーベキューをしていれば、
いちいちサイズのでかい化け物が群がってくるが…
なんと、トゥエラとテティスが凄い動きで全部食材に変えてしまった。
ちみっこドワーフがマチェットナイフを振り回し、
おしっこの漏れそうなダークエルフが放った矢の弾幕が、鳥をタワシみたいに変えてた。
そんなこんなで、特に危険なことも無くのんびりと車は進み…
森を抜けた。
その途中、ドラゴン肉も補充したし、
ドワーフ帝国の跡地も立ち寄ったのだが…
「しれん」
トゥエラはそれがなんなのか、どこを目指せばいいのかもさっぱりで、
おっさんも途方に暮れた。
ならば、まぁ。と
わからないことを悩んでいても、
何が分からないのかが分からないわけだし…
懐かしき港町にでも向かって、海鮮丼でも食わせてやるかと、
木々が薄くなり、春の日差しをたっぷりと浴びれる草原地帯に車を向かわせた。
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日が暮れてきたので、今日はここまで。
おっさんはトラックを一旦送還し、
かわりに寝床を召喚する。
冬の間の暇つぶしで作った、夜営用の折りたたみテーブルと椅子も並べた。
ほわっと立ち上る木の匂いに、心が落ち着く。
さて──
腹も減ったし、メシの支度だ。
おっさんは得意げに、
ドラゴンの体内で拵えた、特製ソーセージを取り出す。
皮も、挽肉も、加工も、ぜんぶ──
メイド・イン・ドラゴン
である。
破裂しないようササッとソーセージに切れ目を入れ、
キャベツと玉ねぎはくし切り、
にんじんは輪切り、
ブロッコリーは適当に手でちぎる。
深めのフライパンに具材をどさっと放り込み、
ドラゴンの魔石の欠片と、
ドラゴンの歯の削りカスをぱらぱらと。
水をひたひたに張って、
火にかけて、蓋をして、ぐつぐつと煮込むだけ。
最後にケルベロスの魔石で味を整えて──
「ほれ、絶品ドラゴンポトフだぞー!」
蓋を開けると、
湯気とともに、野菜の甘い香りと、肉の香ばしい香りが
ぼふっと広がった。
トゥエラもテティスも、
ぱぁっと目を輝かせて駆け寄ってくる。
──至福の夜が、はじまった。




