★第四章 第一話 雪に閉ざされた樹海と、春の目覚め
『雪に閉ざされた樹海と、春の目覚め』
あれから、信じられないほどの雪が降った。
ログハウスも、暖炉の煙突だけを辛うじて覗かせて──
あとは、まるごと白い海に沈んでいた。
俺たちは、当分のあいだ、家から一歩も外へ出なかった。
薪を燃やし、暖炉を囲み、娘たちと共に、春を待った。
トゥエラは薪を割り、テティスは魔法の練習をし、
俺は──酒を呑んで、メシを作った。
雪没による窒息の心配はなかった。
いざとなれば、重機での除雪か?と思っていたが…
暖炉が呼吸をし常に新鮮な酸素を生むため…
屋内は快適だった。
いつか世界が溶け出すその日まで。
俺たちは、静かな冬眠を続けていた。
──そして、半年。
重たく覆っていた雪が、じわじわと崩れ、
微かな光と、温かい風が、樹海に戻ってきた。
窓を開けると、遠くで小さな鳥のさえずりが聞こえた。
春だ。
あの、呆れるほど長かった冬が、終わったのだ。
おっさんはそっと腰袋を撫でる。
「……さて、またぼちぼち、いきますか」
ログハウスの扉を、ぎぃぃと押し開けた。
眼前に広がる、見渡すかぎりの銀世界──
ところどころ、雪解けの泥が顔を出している。
娘たちが駆け寄ってくる。
「おとーさん、ひさしぶりに、外!」
「さんぽー!!さんぽーー!!!」
はいはい。わかったわかった。
半年前とは、少しだけ違う、頼もしくなった二人を引き連れて、
俺は、久しぶりの樹海探索へと歩き出した。
新しい季節、新しい物語。
ここからまた、俺たちの日々が始まる。




