第十八話 ふつうのアル中に戻ります
我が家に、温もりの火が灯った。
煙突をしっかりと接続し、薪をくべ──
ライターを取り出そうとしたその時、
テティスが小さく指を鳴らした。
──ぽっ、と青白い火の玉が生まれ、
薪にふわりと触れる。
パチ……パチン!
小さな音とともに、乾いた木片が弾けた。
やがて炎は育ち、暖炉いっぱいに明るさをもたらす。
暖炉は、完成した。
綺麗に鞣された白い虎の敷物が、赤々と揺れる火に照らされ、
より一層、誇らしげに見える。
最初はまだひんやりしていた床や壁が、
じんわりと、まるで呼吸するように温もりを帯びてゆく。
暖かい空気は、ゆっくりと家全体を包み込んだ。
娘たちは何がそんなに楽しいのか、
「きゃははは!」と笑いながら部屋中を走り回る。
そんな姿をソファに沈みながら眺める俺は、
今この瞬間、心から思った。
──帰ってきた場所がある。
──守るものがある。
──それだけで、じゅうぶん幸せだ。
もう少しだけ、俺はこの時間を噛み締めていたかった。
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それからしばらくして、外気がさらに冷たく感じられるようになった頃。
ログハウスの内装工事も、ほぼ完了していた。
トイレや階段、料理用のオーブンまで揃い、
スペースが余ったので、リビングに少量の薪を保管できる棚もこしらえた。
ユニットバスの外側には間仕切り壁を造り、
そこを洗面所兼脱衣場とした。
──これで、生活に必要な造作はひとまず出揃った。
おっさんは工具をまとめ、
最後に玄能を床にそっと置いた。
そして、深いため息をつくと、
「ふつうのアル中に戻ります」と、
大昔のアイドルの引退セリフを真似て、宣言した。
数秒後には、焼酎を片手にソファへ沈み込んでいた。
ログハウスには、薪のはぜる音と、静かな酔いが満ちていた。
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第三章 完
ここまでありがとうございました。
続きも書け次第出しますので
よろしくお願いします。




