第十三話 鋼鉄でできたタンポン?
携帯のアラームで目が覚める。
携帯……いや、スマホって言うべきか。
最近じゃ、その呼び方が“若者とオッサンの分かれ目”だって誰かが言ってたな。
川は相変わらず激しく流れているが、
昨日こしらえた丸太橋の上に通した“クネクネお散歩ロード”は無事なようだ。
いちおう安全対策として、端から端まで親綱をピンピンに張り、
今日はちゃんと安全帯を装着して渡っていく。
丸太がギィ……と鳴るたび、
少しだけ背筋が伸びる。
水面に目を凝らすと、岩のような影がぬるりと動いた。
「……イワナ、かぁ」
塩焼きにしたら絶対うまいな、などと考えながら歩を進める。
そうだ、目的は石探しだった。
飯テロの妄想はあとにしよう。
「おーい石ー、いい石おらんかー?」
だが辺りには樹木しかない。
草を刈り払い、枝を伐採しどこまでも進んでゆくと…
石がいた。
「でけぇなおい」
ツノがジャンボカラーコーンくらいある。
全長は…大型ダンプくらいか?
そいつには全身にゴツゴツした石がびっしりと張り付いていた。
「まぁそうゆう皮膚なんだろうけどな…ファンタジーめ」
ズシン!ズシン!と大地を揺らしながら、のったりと歩く石。
人間にはたいして興味はないようだ。
「フレコン一杯分くらい分けてはくれんかなぁ…」
観るだけでわかる。あれは良いものだ。
踏み潰されないように遠巻きに観察する。
最初は石垣のような岩石の集まりなのかと思ったが、どうやら違う。
このサイ…一個の石なんだ…
歩き回るため、足も胴体もグネグネ湾曲するのだが…一個なのだ。
色々な採取方法は思い浮かぶが、作業に移れない。
あまりにも雄大で…美しく…立派だ。
砕くのは惜しい。
俺如きが…こんな材料を扱っていいのだろうか?
間違いなく庵治石…花崗岩のダイヤだ。
数時間。
俺はサイを観ていた。
動物園行けよ
といわれそうである。
そして覚悟を決めた。
これを使おう。
唯一無二の暖炉にしてやる。
観察は終わった。石と会話した。
腰袋からひょいと取り出したのはラッカースプレー
俺には見える石の木目。
そこに噴射しラインを描く。
ぐるぐるぐるぐる…
何十周したかわからん。
気がつくとサイは、10個の部位に分けられるラインマーカーが引かれていた。
「よくよく見たら牛の食えるとこと一緒かよ」
振動ドリルを召喚する。
錐は10ミリ硬石用ダイヤモンドチップだ
要に穴を穿つ。
沢山開ければいいってもんじゃない。
「20ヶ所…だな」
深さ12センチほどの楔白を作ってゆく。
ドリルを送還し、せり矢とセットハンマーを手にする。
せり矢ってなんだと説明するなら…
「なんだろう?鋼鉄でできたタンポン?」
……全然違う。あんなに吸わないし、むしろ押し広げるやつだ。
穴に撃ち込む。全箇所を均等に叩く。
もちろん逃げ回りながらだ。
サイは痛みは感じないが、なんかウザい。
そのような動作をしている。
辺りが暗くなる。
夜だ。
だが作業は終わらない。
自立式投光器をあちこちに立てる。
「おっさんに夜間工事やらせんなよ…」
ぼやきも出る。
臓器が酒精を欲して手を震えさせる。
「だが…この現場は終わり仕舞いだしな…」
ひたすら撃ち込む。
腹も減った。頭がくらくらする。
そして…腕時計が夜明けを伝え始める頃…
パァァァァァァァン!!!!!
サイは10個の岩石に変わった。
疲れ果てたおっさんは、その場で倒れ込む。
一応ブルーシートは敷いた。
寝不足と疲労で臭う全身…
靴下は温泉のような芳しさであろう。
どうでもいい。
宙を見上げたまま…ポケットから出したストロー付き清酒をちゅーちゅーする。
一気に飲み干してしまい一言
「寝るわ」
どでかい岩石に囲まれた樹海に死んだように眠るおっさん。
世界初の“動く庵治石”を解体した偉業を成し遂げた男は……
ただのおっさんであった。
巨石の隙間を風が通り抜け、冷たい空気が樹海を撫でていた。




