第十二話 五臓六腑が二臓三腑になったとて…
川を見つけた。
だいぶ幅があり、流れも勢いがある。
おっさんは水中でも工事したりするが、
安全が確保された上での話しである。
普通に入水したら流されて溺れてしまうだろう。
「こんなデカい川あったのかぁ」
泉とは方角が違う気がするし、どこまで続いてるのか不明だ。
渡ってみたいけど…どうしよう?
その辺に生えてる巨木をぶっ倒せば…あっちまで届くだろうか?
レーザー距離計を対岸に生えている大木に合わせると、90メートルと出た。
「大丈夫そうだな」
太そうな樹木を選んでチェーンソーを入れる。
最短距離にするため慎重に倒す方向を吟味し受け口を作る。
ややあって、
ミシミシと巨木は傾き出した。
「たーーおれーーたぞーーー!!」
誰もいないが、大声で注意喚起を促す。
目的があって、地面スレスレではなく1メートル程度上がったところで刃を入れた大木は、
ミシミシ…からビキビキ!バキバキバキバキと音を変え、遥か対岸に見えるまぁまぁな樹木の…
「よーしよーしそのままいけー」
上流側に寄り添うように…
ズドオォォォォォォォォン!!!
倒れ伏した。
「狙い通りだったな」
ここに倒せば、川の水嵩が増えたとしても、丸太橋が流されることはない。
土が舞い、枝が水面をかすめて揺れる。
水しぶきが頬にかかって、俺はちょっとニヤけた。
あとはこの高めに切った切り株と倒木を固定すれば…
とりあえずは渡れる橋の完成だ。
とは言え、枝や葉が多い茂っている大木なので、チェーンソーを振り回しながら枝打ちしながら…滑って落ちないように足袋に履き替えて慎重に進む。
時間をかけて対岸まで辿り着いたが…
「こんな危ない橋じゃ、娘達とハイキングとか来られんだろ」
その場で板材を大量生産し、豆 の字を逆さまににしたような構造で遊歩道をこしらえてゆく。
「あ、一番上の線は水面な」
誰にいっているのだろうか?
スライド押し切りと長いビスが活躍し、あえて歩くラインの板をを 〜〜〜 と並べ対岸まで戻ってきた頃には夕刻であった。
「上から見た話しな」
誰にいっt(ry
テントを張り焼酎を煽り、炙ったイカを齧るおっさん。
哀愁と加齢臭が滲み出ている。
「あいつらちゃんとメシ食ったかな?」
豚バラのブロック肉を大きめに切って、角煮やらカレーやらシチューやらを多めに作って冷蔵しといた。
米の炊き方は教えたので、大丈夫であろう。
グビグビと25パーセントの酒精がおっさんを蝕む。
「五臓六腑が二臓三腑になったとて…酒はやめれんな。」
ひとりごちる
焚き火の火が、カチカチと石を鳴らしていた。
それをつまみに、もう一口…
七味マヨをつけたイカを一口…
「これだけで生きていけるわ」
樹海の夜は更けて行った。




