第四話 頭上の大蛇や足元のワニに注意
夜が明ける。
また1日歳をとった…
まだらに混じった、たいして渋くもない白髪と無精髭を風呂場で整える。
昨日は俺の仕事を見ていたトゥエラが、自分の斧を見つめしょぼくれていたので…
おっさんが昔、アマゾン川の護岸工事に派遣された時に支給された腰鉈をよく研いでプレゼントしてやった。
朝の現場のKY(危険予知)活動が、
【頭上の大蛇や足元のワニに注意】
という足がすくむような現場だった。
成人男性くらいのシルエットの丸太に斬りかかり、一刀両断し、狂喜乱舞していた。
テティスは一歩も動いてないのに、目に見えない速さで矢を数回放ち、丸太をハリネズミに変えていた。
「…娘達…こえぇな」
嫌われないように気をつけよう。と意を決した。
「今日は2階の床くらいまで仕上がるかなぁ?」
煙草を咥え、ウロウロと歩き、今日の工程をイメージしていた。
建物の周りを材料を担いで回遊し、
太陽が真上に来た頃には、地上から5メートル。2階の床を組む高さまで外壁が建ち上がった。
ウッドデッキの上に建ってる家なので、
実質4メートルだ。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
暑いからといって、冷たいものばかり食わせるのも…
天面が丸みがかり、不安定な、幅30センチほどの丸太の上を、安全帯も着けずに、のしのしと歩きながら、
思案するおっさん。
足元は、薄っぺらいが裏側が生ゴムでタイヤのような形状の、踏ん張りの効く地下足袋。
「昼だし、ちゃちゃっと済ませてしまうか…」
作業着の埃をコンプレッサーのエアーダスターで噴き、払い飛ばしたら、手を肘までしっかり洗い、
レッツクッキング♪
雷を出す鶏肉を食べやすく切り、
玉ねぎを高速薄切り。
3人分まとめて作るので、大きな中華鍋で。
港町産魚介のダシに絞り魔石汁と砕き漉した魔石を加え一煮立ち。
肉と玉ねぎを合わせ溶いた卵を回し入れ半熟になるまで煮立てたら、
「ほい完成。」(ここまで10分)
炊き立てご飯に盛り付け、七つ葉を散らして、召し上がれ。
「うーん」
美味いんだけどなんていうか…
電気風呂に入ってるような全身漏電感…
向かいに座る娘達も…ピクッピクッと悶えながら丼と格闘している。
「罰ゲームの低周波ビリビリランチ」
みたいで笑える。
「味は美味いんだよなぁ…」
午後からは梁渡し作業だ。
これは、まぁ危険で、常識で考えれば一人で行うような工程ではないのだが…
唸る小型フォークリフト。
こいつが建物の外周をブンブン走れる幅に、
ウッドデッキは設計されている。
ドアも付いていないので、屋内もブンブンだ。
「ひとりで〜♪はりをあ〜げ〜て〜♪ひとりで〜はりをか〜け〜て〜♪」
よくわからない失恋ソングを口ずさみながらブンブン組み立ててゆく。
簡単に言えば、「家の端から端まで届く長さの丸太を外壁の上に乗せてゆくだけの簡単な作業」である。
これが2階の床を、屋根を、全てを支える空中に掛ける屋台骨、である。
この時の為にわざと取って置いた、ひどく反り曲がった丸太を…あえて使う。
こう…盛り上がってる方を上向に渡すわけだ。
上空から見れば、「囲」みたいな組み方だ。
低学歴なので書き順はわからんが…
横棒→縦棒→横棒→縦棒だ。
「わかりやすいだろう?」
そして、娘達の部屋になるエリアに床板を張ったら、今日のところは勘弁だ。




