第三話 屋根ないんだがな
一日中働き、汗と加齢と粉塵にまみれた臭いおっさんは、風呂に飛び込む。
「ゔぁぁぁぁぁぁ…」
風情や侘び寂びを大事にする男ではあるが、
「いやはぁー風呂はユニットバスに限るわぁ〜」
などと身も蓋もないことを宣う。
岩風呂や檜風呂などが嫌いなわけではない。
「清潔な方がいいじゃんねー♪」
職人失格である。
女子用も別に組み立ててやったので、向こうのほうからはしゃぐ声が聞こえる。
「晩飯はどうすっかなぁ」
日中重労働だったため、カロリーの高いメニューでもいいのだが…
「結構暑かったしなー」
ざばぁっと湯船から上がり、教育上芳しくない格好で星空の下を彷徨く。
伸び切ったヨレヨレのパジャマを着たおっさんは、
それでも申し訳程度にエプロンを羽織り
「冷やし中華にすっか」
…冷蔵庫を漁り始める。
ネギと生姜をみじん切りにし、各種魔石と水をよく混ぜタレを作る。
鬼コマ肉に酒を垂らし薄力粉をまぶし揉み込む。
沸騰した鍋でさっと湯掻き、ジップロックにしまい氷水にダイブ。
「茹でたあと冷やして置いた中華麺がこちらに御座います。」
料理番組のような手際で、
皿に食感のいい葉野菜と麺を重ね合わせるようにミルフィーユ状に盛り、
タレを回せば完成。
おっさんは一点豪華主義なので何品も作るのは苦手なのだが…
育ち盛りの女子達にこれだけでいいのだろうか?
「餃子でも焼くか…」
盛り付け終わった冷やし中華を加湿冷蔵庫に保管し、もう一品。
ニラとキャベツを細かくし、ミンサーをゴリゴリ回し現れたムカデの挽肉を…
ぱぱっと混ぜて皮に包みジャっと焼く。
「ほいエビプリップリ餃子でございます。」
テーブルに並べ、子供達の髪を乾かしてやり、
みんな揃ってはい、頂きます。
おっさんは紫蘇焼酎のロックである。
おっさんによく似合う酒である。
子供達にはバナナオレ。
魔石汁たらりとを垂らした本格派。
もりもり食べる子供達を眺め、ほっこり寛ぐ。
「屋根ないんだがな」
頭上は降って来るような星空であった。




