第二話 カーテンがわりになる魔法
朝の光が樹海の眠気を覚ます時刻…
数ミリの狂いもなく、水平に伐採された超巨木の幹。
面積は…
直径4〜50メートル?
相撲の土俵…の10倍ほどであろうか?
そこにポツンと置かれた簡易式テント。
そのタープが揺れ、むさ苦しい五十路手前のおっさんが姿を現す。
「さむ!…やっぱこんな高いと気温も低いのかぁ」
なにやらぶつぶつぼやきながら、
コンロに炭を起こし、朝食を作り出す。
「今朝はやっぱあれの気分だよな〜」
加齢からか最近は重い食事も控え気味で胃薬が常備薬になるような体たらくなおっさんだが…
今日は幾分調子がいいのか、パスタを茹でソースを作っていた。
「どうせ絶対美味いんだろ?この卵」
先日、鶏から貰った巨大卵を小分けした袋を取り出しボールに開けると、濃厚すぎる黄身がボールの底にどろっと溜まる。
このままじゃ重すぎる──
俺は迷わず、牛乳をひとまわし。
「…濃厚は罪だが、中和は愛だな」、粉末魔石を加えてインパクトに取り付けた撹拌機で白身ごと混ぜる。
火の通ったフライパンで厚めに切った、燻製蛇肉を炒め、
鍋の湯が沸いたのでパスタも茹でる。
ベーコンがカリカリになったら魔石を加えパスタの茹で汁も少し入れる。
硬めに茹で上がったパスタに卵とベーコンを加え弱火で絡める。
仕上げに粗挽き粉末魔石を降り完成!
おっさんの腹の音を目覚ましに娘達が起きて来る。
朝から高いテンションできゃいきゃいと喧しい娘達に、ハチミツ入り紅茶を飲ませ、パスタを食わせる。
俺は一人前の半分ほど食ったが…
やはり重かったので、コーヒーで紛らわし煙草に逃げる。
俺の余りまで取り合って食べてた二人は、
満足したのか、遠くを見つめていた。
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重たい腹を撫でながら…
俺は製図台とパソコンを構え図面を描き出した。
「今度は仮住まいじゃないし少しはこだわってみるか…」
特に考慮する点は、高所による寒暖差と飛ばされそうな強風。
それから巨木自体も揺れるのでそれに適応した免震。
娘達も成長してゆくのかもしれない(数百歳らしいが?)のでプライバシーの保護。
あとは真西や真南の強すぎる日差しを建物配置の向きでカバー…?
などなど熟考を重ねて出来上がった図面が…
これである
どーん!
材料はいくらでもある。
一本一本の反り具合や太さ、色味なども考慮しつつ
使用箇所におおまかに振り分けて置いていく。
まずは建物よりも一回り大きく仮設足場を組む。
一般的なには、建物の下を支えるコンクリートの基礎を打つのだが…
この幹の上はトゥエラの斧も刃が立たない硬さなので
(おっさんの道具では普通に切れるが)、
広いウッドデッキとそれを支える土台を直接幹に取り付ける。
デッキは家より広い(仮設足場目一杯)のでその上に建てる家は、ぐるりと外を一周できる仕様だ。
いよいよ外壁の組み上げだ。
いつもの巨木を伐採するチェーンソーとはだいぶ異質な、先が剣のように細く加工作業に向いている刃にブレードごと交換し加工に入る。
樹木は下が太く先が細い。
その習性を利用し、元と先が交互になるように組む。
簡単に説明すると、建物を上から見て、 口 という漢字の書き順通りに、丸太を置いてゆくのだ。
細い方の丸太の半分ほどを丸く抉り、太い方もピッタリ合うように合わせる。
大まかな加工はチェーンソーで
その後持ち手が1メートルほどあるノミ(刃は丸い)で寸分どころの精度ではなく削る。
鳥のさえずりも、娘たちの声も、今は聞こえない。
木目を見つめ、重力と湿度を読み、ただ刃先を進める。
一厘の誤差もなく。
【一寸=33ミリ 一分=3.03ミリ 一厘=0.303ミリ】
もし上空から撮影していたなら…俺は建物の外周を丸太を担いで時計回りにぐるぐる回っているだろう。
丸太と丸太を合体させる、
その前に特殊免震気密パッキンを挟み重ねる。
ここに釘やビスは必要ない。
組み込めば、もう外れないからだ。
手間がかかるのは、窓や出入り口をつける場所。
アルミサッシも召喚できるが…無粋である。
細い丸太を半分に割った材料で木枠を作り、
だが、性能は保持したいので真空四重重ガラスを嵌め込む。
ガラスを入れる際、窓枠の溝に捨てシーリングを忘れない。防水と気密の為だ。
そして最後に上側の窓枠を嵌めれば、百年曇らない窓の完成だ…
などと思っていると、後ろからテティスがトテトテと近づき、ガラスに小さな手を当て何か呟く。
「vjつえls」
一瞬で真っ白に曇るガラス
「うぉ?」
「カーテンがわりになる魔法 だってさー」
トゥエラが言う。




