第十一話 燃えるゴミ、搬入しまーす
「──突入する」
トゥエラがコクンと頷く。アコム嬢は気配を消すように黙って背後につく。
俺は腰袋のバールをゆっくりと抜き、巨大な扉に手をかけた。
軋むような低い音とともに、純白の神殿の内部がゆっくりと姿を現す──
むわっとした異臭が湧き出す…
緑色の霧が視界にまとわりつく…
うず高く積もる…
そこは……完全なる“ゴミ屋敷”だった。
「……あー、これやばいやつ」
湿気と腐臭。粉塵と、カラフルな粘菌のようなモノがこびりついた壁。
天井から吊るされた何かの残骸。転がる謎の衣類。
そして足元に──正体不明の液体。
それなりに大きい入口なのだが、ゴミがうず高く積み上げられており、登山のように登り越えなければ中に進むことは出来なそうだ
足をかけると、ズブッと沈む。
「うおっ……これ、腐葉土か?いや違うな、もっとこう……家庭ゴミと魔力と欲望をこねくり回して醸したやつだ」
鼻の奥を刺激する刺激臭に思わず顔をしかめる。
「ふんぬっ!」
後ろからトゥエラが、鍬のように斧でゴミをかき分けて突撃していく。
アコム嬢は……浮いてる。ずるい。
そのまま30分ほどかけて、神殿の“1階層”を突破。
現れたのは、広間のような空間だった。
中央には――巨大な“椅子”。そしてその周囲に山積みの……“空き缶”。
なぜこの状態になったのか作業の前に原因と対策を考えねばならない。
空き缶の山を一つ手に取って観察する。
「……たぶんこれ、魔力ドリンク的なやつだな。“海神のエナジーチャージ”みたいな。成分は……謎」
缶には擦れて読めないラベルと、どこか既視感がある。
「この世界にもコンビニってあったのか?」
トゥエラが広間の隅に転がるクッションの山を蹴ると、ふかふかとした“寝床”らしきものが現れる。
「……あー、これは完全に引きこもりの巣だな」
アコム嬢は椅子の上のホコリをぬぐいながら、ぽつりと呟く。
「むかし、神殿の番人だった者が、ここで長いこと一人だったのです……」
「だからゴミ屋敷化したと?」
「食べて寝て、魔力飲んで、また寝て……人っていうか、管理者も崩れるんだねぇ」
よーし、じゃあまずは片付けからだな。分別は……燃える・燃えない・魔力反応あり、でいくか」
「おぉっと、これは高濃度。ゴミっていうより……爆弾じゃねぇか?」
「……管理者、崩れすぎじゃね?」
トゥエラがそっと魔力缶を両手で拾い上げる。
「捨てずに埋めましょう。ドワーフの地層で圧縮すると、数百年後にはいい感じの魔力鉱石になりますから」
「おお、それリサイクルってやつだな。SDGs、異世界でも大事なんだな」
アコム嬢が手をかざすと、ゴミの山の一部がスーッと浮かび上がる。
「魔法、便利すぎでは?」
「でも……全部やってたら腕がパンパンになりますので……」
「結局手作業なんだよなぁ」
ミケのところのマグマまで運べればなぁ…
全部燃えるゴミになるんだろうが。
このテーマパーク、動力は海竜で海上なら施設ごとの移動もできそうだが…
上陸して地上を進むのは無理だろう。
巨大筏が壊れる。
外はピカピカの夢の国のように仕上がってしまったので、ゴミの山を作るのも気が引ける…
この神殿内部だけで全てを解決する方法は…
これだ!
俺は辺りのゴミを仮にどけ隙間を作ると、
巨大な製図用紙を取り出し、コンパネを机がわりに、図面を描きまくった。
傍にノートパソコンを立ち上げCADを駆使し緻密に設計する
神殿の間取り、高さ、屋根の加工の可否…
全てを計算しできあがった図面が…
書き上げた図面を広げる。
ぽかーんとした顔で見つめる少女達
「さぁ作業開始だ!」
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外に出て休憩を含みつつ、ラッキー君に相談してみると、驚くべきことがわかった。
あの石造りに見えた神殿は、海竜の一部であり、骨であり皮膚であるそうだ
屋根の一部を開口したいと言うと
パカっと棟が開き空が見えた
翌日からは本格的な工事に入った。
神殿内、空いた空間の一角に──
耐火・不燃のレンガを緻密に積み上げていく。
「ほんとのゴミセンターに比べりゃ、サイズはミニチュアだけどな…」
それでも、俺の手元には完璧な設計図がある。
図面通りに、燃焼室、灰処理ライン、熱交換ダクト、煙突(ドラゴンの鼻方向)まで配置。
「──性能と処理能力は、魔法とか不思議エネルギーのおかげで、まったく謙遜ない」
むしろ、下手したら本物よりエコで高性能かもしれん。
ゴミを運び入れ、焼却し、熱で蒸留し、
濾過して水にして循環させる仕組みまで入れた。
アコム嬢が魔法で、荷揚げを補助してくれるし、
トゥエラも足場の上で、レンガを次々と積み上げていく。
「……おいおい、そこのモルタル、もうちょい緩くしてくれ〜」
「ういっす!こねなおしまーす!」
まるで高校の文化祭前日かってくらい活気がある。
だが俺たちは本気だ。
この“生きてる神殿”を、最高の形に蘇らせる。
そして──
焼却施設はついに完成した。
完成検査も問題なし。ドラゴンのくしゃみひとつで、煙突の排気能力も確認済み。
神殿の中心ホールにて、
赤いリボンが張られたテープカッターが設置される。
「テープカットいきまーす!」
パチン!
トゥエラが謎の緊張顔でハサミを振るうと、
周囲に集まった(3人だけど)スタッフたちから拍手が巻き起こる。
「では……運用、開始しまーす!」
アコム嬢が魔力で炉に火を灯す。
ゆらりと立ち昇る初焔。
炉内の温度が安定すると、排気ダクトのバルブが自動で開く。
「燃えるゴミ、搬入しまーす」
ゴミ山から分別された“高濃度魔力缶”は──
丁重に回収され、トゥエラが建材扱いでフレコンへ格納済み。
そのほかの一般ゴミ、布団やら衣類やら謎の液体を含む袋たちは──
アコム嬢が浮かせて搬入。
ゴウッ!!と轟音とともに燃え盛る炉。
「……すげぇな。吸い込みも火力も完璧だ」
俺は熱交換ダクトに手を当てる。
炉の熱を利用して神殿全体に暖かさを巡らせる仕組み。
これで冬も安心だ。
トゥエラは汗だくになりながら、炉の近くで見守っていた。
「……これ、学校とか孤児院とかにもあったら、助かるだろうなぁ」
「……ふむ。作るか?」
俺はすでに、図面をいくつか展開していた。
CADを使った緻密な図面(爆笑)




