第九話 白と緑と灰のランドスケープ
内部作業に入ると言ったな?
あれは嘘だ。
朝日を浴びて輝く純白の神殿を見ていたら、どうにも気になってきた。
入口へのアプローチが何もない。
背中斜面も寂しい。
施主である海竜も、このままじゃ潜れなくて乾いてきちゃってるし──
「……やっぱ外構からだな」
まずは神殿周囲に茶色いレンガの花壇をぐるりと配置。
白とのコントラストで映える。
かつて山林を削り、高速道路を通した縦貫道の残土がいくらでもあるので、石は取り除き綺麗な土だけを入れてゆく。
神殿入口までのアプローチはウッドタイルにした。
丸太を輪切りにして形を整え、バラバラになってはいけないので、裏面を針金で縫う様にしながら、
敷き詰める。
歩くたびにカパカパ音が鳴る。
ちょっとした遊び心だ。
さらにデッキゾーンの四隅に水中ポンプを設置。
ただしそのままでは塩水なので、海水淡水化装置を接続。
ホースは白い塩ビ管で目立たないように取り回す。
海竜に確認すると、「だいじょぶ」との返答なので
アンカーを打ち、白ポールを建て、
てっぺんには回転式スプリンクラーを装着。
神殿周囲の花畑にも、背中全体にも優しい潤いを与えられる構造になった。
さて、次はこのデッキか。
応急で作っただけあって、コンパネ一色でダサい。
「白いドラゴンの街……なら、ここはやっぱ石畳だな」
ヨーロッパの街並みをイメージしながら、花崗岩を仮並べしてゆく。
重量は相当になったが、樹海の丸太が支えてくれている。
浮力は問題ない。
すべての石を並べ終えたら、まぜたろうの出番。
今回は水を加えない“空練り”モルタル。
石畳の下に詰め、ズレを防ぐ。
仕上げに、石と石の隙間(目地)を柔らかめのモルタルで優しく埋める。
隙間に流れ込む灰色の線──
それが一枚の風景画のように、整った表情をつくり出していく。
神殿、竜、花壇、石畳。
すべてが自然に馴染み始めた。
今ここにあるのは、異世界の海上に浮かぶ、
**「白と緑と灰のランドスケープ」**だった。




