第八話 牡蠣って、ダニみたいなもんで痒かったわけね。
朝日を浴び目が覚めると…
キャアキャアと黄色い悲鳴が響く。
ゆっくり体を起こし眺めると、海竜の首を滑り台にしてはしゃぐ少女達が見えた。
「リゾートかよ」
夜勤明けのかったるい体に、濃いめのコーヒーを流し込む。
今日の作業行程は──
劣化した神殿の現調、及びリフォームプラン、解体後の建て替えプラン、もしくは全撤去。施主様との打ち合わせもあり、最適な改善案の提示が必須。
注意事項としては、海竜の背中がヌメヌメしていることによる転倒落下事故など。
改善案は洗浄による滑りの除去。
仮設通路の確保。
万が一に備え、上下作業の禁止を徹底。
「それでは、今日も安全作業でお願いします! 手元足元は良いかー!?」
「bfじぇえy」
「本日もご安全に!」
KY活動をへて現場入り。
海底から回収したトゥエラの斧を借り、体育館ほどある石造りの神殿へ。
年月を経たとは思えない石肌。だが扉があるべき場所は、ただの岩壁だった。
「あー…これが岩牡蠣?」
斧を差し込んで煽ると──
ぱきっ。斧がかけた。
そっと返すと、トゥエラはこの世の終わりのような顔をしていた。
大型コンプレッサー召喚!
ホースとチッパーを接続。
タタタタタタッ! 軽快なはつり音がこだまする。
剥がれた牡蠣を拾い、マイナスドライバーでこじ開けると…
「宝石!いやこんな色の宝石しらんが…海の宝石やーーー!」
懐から絞り魔石汁と混合魔石汁を取り出し、ポタポタと牡蠣に垂らす。
じゅるん♪
咀嚼する間もなく飲み込んでしまった。
濃厚すぎる海の香とクリーム感──
「うめえええええええええええええ!」
こんなうまい牡蠣、広島にもない。
洗面器ほどもある殻から出た実は、圧倒的ボリュームで窒息するかと思った。
作業は一気に捗る。
トゥエラに殻の高圧洗浄を任せ、アコム嬢が手をかざし魔法を噴射し、冷凍保存(異世界で初めて見た魔法)。
フレコンバッグに次々収めていく。
入り口だけでなく、建物全体をはつる。
細心の注意を払いながら作業を進めるが若干の傷はついてしまう
そこはペーパーサンダーで研磨し漆喰で補修し、元の美しさを取り戻す。
そして定時近く、見上げた神殿は──
神々しい純白の姿で、夕陽を浴びて光り輝いていた。
──
本日の作業はここまで。
飛散物や足場の具合を確認し、施主に挨拶する。
「明日からは内部の方、入らせていただきますんでー!」
長い首をデッキに横たえ、
うっとりした目でこちらを見るドラゴン。
なるほどね。牡蠣って…
ダニみたいなもんで、痒かったわけね。
AIさんの絵なのでいまいちですがイメージです




