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第四話 ムフフなシーサイドミッドナイト

呑み足りんな…


トゥエラを(ハイエース)後部座席(ダブルベッド)に寝かしつけ、

陽の落ちた街灯もない港町をふらつく。


「しかしだな、この世界の貨幣(おかね)皆無なんだよね…」


財布には万札、携帯にはペイ系アプリ。

でも異世界で使えるわけもない。

工具袋には、ドラゴンがくれた黄金(じゅんきん)(ネックレス)があるが、

飲み屋ごと買うわけにもいかないので出せるはずもない。


酔って騒ぐ冒険者たちや

胸を強調しながらこちらを誘ってくる牛獣人(ボインの)少女(かわいこちゃん)がこちらを誘ってくるが、先立つもののない俺は背中を丸め、

トボトボと歓楽街を通り抜ける。


「ムフフなシーサイドミッドナイト……」


歩き続けると海辺が見えてきた。

漁師たちの船が並ぶ護岸を抜けると、人の手の入っていない岩場。ショアブレイクの打ち付ける岸壁にたどり着く。

波飛沫のギリギリかからなさそうないい感じの岩に腰を下ろし、

ポケットから焼酎(ミニ五郎)を取り出す。


ぬるい焼酎が、胃じゃなくて心に染みる夜だった。

靴の裏に石が挟まったままだったが、どうでもよかった。


暗い海の向こうにあるものは何も見えない。

でも、背中にはちゃんと帰る場所がある。


そう思ったら、またちょっと飲みたくなった。



薄暗かった空にかかっていた雲が少しだけ晴れ、

赤い月の灯火が辺りを照らす。


「星もきれいだなぁ…」


夜空を見上げて、ふと思う。


「こんなかに地球は…ないんだろうなぁ」



心残りは、少しあった。


発売間近だった150V充電式電動工具(マキタコーキ)

オートコンベックスとレーザー水準器が搭載された現場用保護サングラス…

太陽光発電機能(コンセント)付きヘルメット…

一瞬で高所作業と地上作業を切り替えられる作業用エアー竹馬…


「もっともっと特殊な現場で変な仕事してみたかった」


そうぼやいて、空になった容器をポケットにしまった。


「ま、異世界って現場も、だいぶ変だけどな」



「ふぁ…眠くなった…」


寝床へ戻りながら、明日をぼんやり考える。


「ここの貨幣、少しは稼いで……なにがしたいんだっけ?」


酔った頭で段取りを考えるが、特に思いつかないので、

トゥエラの横に転がる。


数秒で意識は落ちた。



トゥエラ:「見てください!枝垂れドラタンが満開に咲きましたよ!…Zzz…」


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