第四十八話
えー……ほんづつこごに申すだぁ。
こだいふたり、めでたぐめおどすっこと
相成りましてなぁ……
どんぞ末永ぐ、あっだけぇ心もって、見守ってけろなし。
──最初のおっさんの計画では、日本で生きていた頃に修繕工事をした神社の──
おっさんがついでに造らされた、祭壇、賽銭箱、神棚などをいい感じに並べて、本を読んで祝詞を覚えて神主代わりの事をやってやろうと思っていたのだ。
しかし、入口を入った正面に、あまりにも神々しい貝殻が置かれてしまったし──
よく考えれば、儀礼などが載っている本も、ビートル君にあげてしまっていたのだった。
しかし、タキシードとウェディングドレスを着て、ここまで来いと言ってしまった手前、
「やっぱ明日にすっぺか?」
とも言えるわけもなく……確か、こんな風に言ってたな──という朧げな記憶を頼りに祝詞を即興で言ってみた結果、訛りすぎてなんだか分からなくなってしまったわけである。
おっさんの一歩後ろに控えた新郎新婦は──
「斧槍にかけて、シェリーを生涯護り抜くことを誓う。」
「どんな闇も、あなたとなら恐れません。」
そう述べた。
後方には、目を潤ませてその光景を見ているパステルと、ニッコニッコ顔で貝を見ているトゥエラ、
そして若干頬を染めたテティスに、先程の変態とは思えない程、凛々しく事態を見つめるオルテメ。
──静寂が辺りを包み込み、おっさんは次の段取りに移ろうかと思った、
その時だった──
貝先の僅かな隙間から、目の眩むような光が漏れ出し──
『………………』
という頭の中に囁かれるような声と共に──
貝が開いた。
──コレには全員が度肝を抜かれた。
立派な美術品で、雰囲気もいいとは思っていたが、その貝が突然、焼いたホタテみたいにパッカーーと開いて、その中に……
巫女服とサンバカーニバルをミックスしたような衣装を身につけた少女が立っており、モジモジと恥ずかしそうにこちらを見ていたのだ。
そしてどういう訳か、貝殻の中はメルヘンチックな少女部屋が展開されており、ぬいぐるみや天蓋付きベッド、タンスにドレッサー、カーペット。
それらが、何故か?神々しいオーラを醸し出していたのだった。
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『……』
コスプレ少女が、体をくねらせながら何かを言ったような気がした。
「あ、あの〜どちらさんだっぺか?おたくは?」
折角の、かわいい弟子のめでたい結婚式だというのに、なんだかギャグみたいな展開になってしまって、どうしていいかわからないおっさんは……
とりあえず身元を尋ねてみたのだが、
『……………』
「あんだって?」
『あぁぁ!もぅ!──新緑と清流の女神!
このアタシがアンタ達二人の
結婚を認めるっつってんのよーーー!』
急にキレたように大きな声で、神を自称した少女は──
『よ…用は済んだでしょ!?
は……恥ずかしいんだから…もう呼ばないでよね!』
そう言ったかと思うと、ポサッと貝を閉じ──
辺りをまた、妙な静寂が包むのであった。
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「…JESUS…THE LORD WAS THERE…」
おっさんが後ろを振り向くと──
セーブルとシェリーが淡い光に包まれていた。
その向こうでは、オルテメが、両膝を地に着いて手を組み、号泣しながらブツブツと何かを言っていた。
時刻は……陽が落ちて暗くなったところだ。
「なんだか変なおなごさ出てきたけんども、
まぁセーブル、シェリー、おめっとさん。
喧嘩さしねーで、仲良くやっせ」
そう声を掛けてやると、二人は揃って首を振った。
「親方……あれは、神でした。我々の魂に、
加護が灯ったようなのです」
──神社仏閣、さまざまな工事を手掛けてきたおっさんだが、神的なものを実際に感じたことは、今まで一度も無かった。
まぁそうゆうもんは、自分の心に住まわせるもんだっぺ。くらいに思っていたのだが、二人はあの少女を神だと言う。
「公爵……真面目な話だ。聞いてくれ…
この国にはな、その昔、緑が生い茂り、
綺麗な水が流れていたそうだ」
やっぱり普通に喋れんのかい!
──と、ツッコミたくなったが、妙に神妙な顔で喋るもんだから、タイミングを逃したおっさん。
仕方なく続きを聞けば──
オルテメ曰く、今では荒地と砂漠化が進むこの島国なのだが、歴史を紐解けば、かつては緑と水が豊富なそれなりに自給も出来る土地であったらしい。
たしかに、そうでなければ、海外まで渡れる船が無かった時代から今のような現状だったならば、国が飢えて死んでいただろう。
そして先程、貝から姿を見せた少女は、新緑と清流の神…だとか言っていた。
ある時、神はお隠れになられて、
その頃からこの島に、乾きが訪れた。
そのような言い伝えがあるとかないとか、話を聞いていると──
ピッチリと閉じていた貝先が、またほんの数㍉程開いて、
『………………
………………………
…………………………』
神様からの小声のクレームが入ったので、聞いてみれば──
どうやら大昔の通貨は出来が悪く、鉄や鉛を捏ねたような粗悪品だったそうで、それを女神の住む泉──
(今朝まで窪地だったここの事だな)
に、参拝と称して大量に投げ込むもんだから……
次第にそれが酸化して錆が沸き、貝の蓋が開かなくなる程に癒着してしまったらしい。
数㍉でも開けば、浄化の神力を垂れ流して、水も大地も命を与えることが出来ると言うのに、
完全に密閉されたシェルター内ではどうすることも出来ないため、不貞腐れて100年以上寝て過ごしていたそうだ。
そのせいで、水は枯れ、大地は徐々にひび割れていったそうだ。
「二度と──神の社を穢す事なく…奉ります!」
オルテメが宣誓し、恥ずかしっこちゃんの神は、
『…………………
…………………………………』
という、ツンデレ風の要素も入れて神託を終えたのだった。
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王様を送迎せねばならんので、おっさんがバスを運転して、全員で宮殿まで向かった。
是非泊まっていけなどと、さっきまでのふざけた口調に戻った王様が言うので──
あぁそうだと、思い出してスープカレーブリトーを一つ、口に突っ込んでやった。
「WHAT!? …こ…コレは……!?
──もぐもぐもぐもぐ──
う、う、う、う、 DELICIOUSーーー!!
OH MY GODーーーー!!!」
「神はブリトーん中じゃなくて、
貝の中さにいたっぺこの!」
ついにおっさんはツッコんでしまったが、非はない筈である。
宮殿に到着し、立派な浴場もあるが、水がないなどというので、ヒートポンプ給湯器をドドンっと取り出してジャンジャンお湯を出し、風呂を溢れさせた。
浴場はそこしか無いというので──女性陣を先に入らせて、おっさんとセーブルとオルテメは酒を呑んで待つことに。
ここでも、ビートル君が開発してしまった、七色のカクテルを出して振る舞うと──
また喧しいオーバーな言葉と動きで楽しませてくれた。
【もう、ルビを振って書くことに疲れたのだ。】
変な声が聞こえた気がしたが、気にせずにおっさんはいろいろと提案を持ちかけた。
スパイスを作ってやるから(ビートル君が)
スープカレーブリトーを作って、国中で食って、
さらに輸出すればいいべ。
とか、後日、セーブル達の披露宴を行いたいのだが、客は来るのか?とか、このカクテルも名物にしてしまえ──など、
目を白黒させて情報過多に着いていけていないオルテメに、それらの施しに、金貨の一枚も要らないから、腕のいい宝石細工職人を紹介してくれ。
と頼んだところで、彼は徐に立ち上がった。
「──HEY公爵! I GOT THISYO!
WHAT’S SECRET!?
この ISLANDに数多いる JEWEL CRAFTSMANの──
頂にREIGN OVER! 唯一無二の!
…THIS オルテメ様 だーーー!!!」
厚切り風大柴、疲れます…




