第二話 イカは噛み切れないナタデココ
南東のバルコニーに出れば、天気のいい日には遥か彼方の海や平原が見える。
「美味かったなぁ…海鮮丼」
港町の思い出が頭を過ぎる。
最初は、最悪だった。
何を食っても生臭く、
魚介を嫌いになりそうになった。
イカは噛み切れないナタデココ。
ホタテは腐った豆腐。
マグロは…ただ生臭いだけのゼリーだった。
魚介類以外にも、肉も野菜も果物もあった。
しかしどれをどう調理しても、無理だった。
鮮度は悪く無い。
むしろ採れたてだ。港町だし。
市場や露店を見ても、皆普通に食っていた。
……美味そうな顔はしていなかったが。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
それから色々あった。
まぁ追々話すが…
結果的に、おっさん達は樹海へと帰って来た。
樹海からここまでの旅路は、すべてジャガーの背中だった。
「自動車なんて無粋だぜ、ゆっくり旅こそがロマンさ」
などと語っていた俺は――
帰り道、ダンプに乗った。
ロマンくそくらえである。
助手席にチャイルドシートを取り付け、トゥエラを縛りつけ、
黒煙を撒き散らして草原を爆走した。
「ど〜こ〜ま〜でも〜♪どこ〜ま〜でも〜♪は〜し〜れはしれ〜♪異世界〜のトラック〜♪とくらぁ!」
鼻歌まじりに火山の麓に差し掛かる。
「うまい肉仕入れて帰るかぁ」
頂上の見えない大火山――
その裏手に俺が取り付けた勝手口がある。
ガチャリと開ければ、そこはドラゴンの寝床である。
「尻尾とタンとホルモンと…手羽とモモ肉も貰うか」
慣れた手つきで肉を削ぎ取り、冷凍庫にしまう。
血まみれのドラゴンは、ぐっすり眠っていた。
「挨拶は……まぁ、いいか」
そんなことなどがありまして、現在。
地上500メートルの巨木のてっぺんに建てた新居――
そのバルコニーで、くつろぎの一杯をすすり、
満腹すぎてレイプ目で転がるドワ子を眺めるおっさんであった。




