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★第二章 第一話 五臓六腑が山火事だ

おっさん達はは帰ってきた。


鬱蒼とした樹海に。

居心地のいい、小屋に。


やはり、ここの食材は美味い。

魔力が濃いとか……娘が言っていた気がするが、たしかに素材自体も極上の肉なのだが…


なによりも──調味料なのだ。


たとえば、その辺にいる獰猛なムカデ。

見た目は最悪で、大きさは電車3両ほどもある。


そいつを罠にかけ、ダム工事のときによく使った、

鋼製ボイド管(直径5メートル)を忍ばせた落とし穴を作り、

途中にエンジン式製材機(ウッドマイザー)を固定しておく。


ズギョギョギョギョギョギョギョギョギョ……!


刃が回転し、ムカデをまるで殻カット済みのカニのように綺麗に切り裂いていく。

その身はプリップリの歯応えで新鮮。

そのままでも最高に美味いのだが――


魔石、である。


これを砕いたり、煮たり、漬け込んだり、絞ったり、削ったりすると、

採れたての山葵わさびの風味や、醤油、味噌、チリソースからコチュジャン、塩、砂糖、出汁の素、中華スープ、ごま油……


ありとあらゆる“旨味”が生まれる。


調味料が生まれるのだ。


一番最初にやっつけた、顔が三つあった狼。

あれの魔石は、複合胡椒ほりにしスパイスだった。


口に含んだ瞬間、胃の奥がカッと燃えるような刺激。

焼いたムカデの脂が、ビシッと引き締まる。


「……これだよ、これ」


俺はひとり、誰に聞かせるでもなく呟いた。


そして、無性にラーメンが食いたくなった。


もう戻れない、日本の――

マシマシコテコテ全部乗せ。


半分くらい食ってからの味変で、

酢を回し入れ、ニンニク&豆板醤で仕上げる悪魔の味……

現場職だから許されたが、

人のそばには寄れない地獄の口臭。

そして、グツグツと煮えるような胸焼け。


「……思い出しただけで腹が減るぜ。」


小さく切ったムカデ肉を、甘辛いタレで炒める。

「トゥエラ〜!ムカチリ(エビチリ)できたぞー」


美味すぎる異世界中華を、フードファイターのように貪る幼女に苦笑しつつ――

冷凍庫から取り出した、

焼酎(ミニ五郎)のワンカップを、

グピリ……と喉に流し込んだ。


「ゔぁぁ〜」


五臓六腑が山火事だ。


静かな森の夜は、更けていく。


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