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第二十二話 パッサパサデ喉に詰マルニャア

竜が吠えた瞬間から、

トゥエラは泡を吹いて目をグルグルさせたまま、

ぺたんと倒れ込んでいた。


だが、もう天井(竜顎)の崩落は心配ない。


支保工がびっしりと口内を固めてる。


おっさんはトゥエラの肩をガシガシ揺すり、

「起きろ、メシの時間だ」と実に雑な起こし方をする。


せっかく目の前にドラゴンがいるんだ。

これを食わない手はない。


腰袋からアスファルトカッターを召喚し、

ドラゴンの舌をちょいと拝借することにした。

このサイズなら、少々切り取ったって、本人には蚊に刺されたレベルだろう。


斬り出したドラタン(竜舌)は、

高圧洗浄機で念入りに洗い流す。

細かい苔やら血やら、全部吹っ飛ばしてやる。


次に、トゥエラにマチェットナイフで、

適度な厚みに切り分けてもらう。


ちなみに焼肉会場はドラゴンの口内だ。

さっきまで喰われそうだった場所で、

今度は喰ってやるターン。


切り出したドラタンは、

まるで霜降り和牛のような見事なサシ。

正直、おっさんにはちょっと脂が重い。

だが、支保工の設置は重労働だった。

今日はカロリー摂っていい日だ。


氷をぎっしり詰めたジョッキに、

焼酎(大五郎)をドバドバ注ぎ、

適当に調味料を合わせた焼き肉のタレに、

ドラタンをくぐらせて、口へと放り込む。


「……うん。悪くねぇ」


トゥエラは米に乗せ大喜びだ。


竜相手にも、仕事終わりの焼肉は格別だった。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


腹もくちくなりゃ、酒も回る。

焼酎(大五郎)片手にまったりしながら、

おっさんは頭の中で、現場の辻褄合わせを始める。


「……要するに、

このドラゴンが火口の街を滅ぼしたってことか」


半分どうでも良さげに呟きつつも、

やることは決まった。

危険物は排除、

それが現場屋の仕事ってもんだ。


メシを終えたおっさんとトゥエラは、

そのままドラゴンの口内をズカズカ進んでいく。


とはいえ“口内”っつっても、

広さは都内の8車線道路みたいなバカでかさ。

もはや建設現場か物流倉庫か、ってレベルだ。


徐々に下り坂になり、

「こりゃ進みすぎると食道コースで胃袋ダイブだな」と警戒し始めた頃、

脇道らしき通路を発見。


そこを抜けると、

体育館クラスの広さを誇る部屋が待っていた。


中をざっと見渡せば――


明らかにヤベぇ色合いの毒の沼、


グツグツ煮えたぎるマグマの池、


そして目も眩むような黄金の山。


「なるほど、要するにこれは、

ドラゴンブレス用の消耗品添加剤置き場か……」


おっさんは勝手に納得すると、

迷いなく真空水中ポンプを取り出し、

脇道にホースを連結。

火山のマグマ川へと毒沼をドボドボと流し始めた。


「不法投棄もへったくれもねぇな……」


続いてマグマも同様に排出。

だがそこはプロ用。

耐熱仕様のポンプとホースは、溶岩ごときに負けず、淡々と作業を終えていく。


残ったのは、黄金の山。


「さすがにこれは“産廃”にゃできねぇな」


おっさんは、

フレコンバッグを次々と展開し、

山盛りの金塊をせっせと詰め込んでいく。


廃棄じゃない。

“保管”だ。

そこに職人としての倫理基準は……たぶん無い。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


一通りの障害物を撤去し、

「よし、これで片付いた」

とおっさんがドラゴンの口から出ようとした時だった。


ズズン、と喉奥が震え、

涙目の三毛竜がなにやら話しかけてきた。


【顎ガ痛イニャー……】


「ん?」


【コノ棒ヲ外シテニャアアア!】


口はピクリとも動かねぇのに、

声だけが頭ん中に響いてくる。

こりゃ念波とかいうやつだろう。


【ナンデコンニャ酷イ仕打チヲスルニャアアア!】


「いや、お前が

上に住んでたドワーフの国を滅ぼしたんだろ?」


そう返すと、

三毛竜は涙を浮かべて反論する。


【心外ダニャア!

我ハ人族ニンテ興味モ無イニャア!】


【アイツラハ我ノ餌ヲズット盗ミ食イシテタニャア】


事情がありそうだ。

おっさんは溜息ひとつ、

「しゃーねぇな」と腰袋に手をかける。


口内に建てた支保工サポートは、

外す時は嘘みたいに簡単で、

スルスルと腰袋に吸い込まれていった。


三毛竜は外れそうな顎をゴキゴキ鳴らし、

ようやく普通に喋れるようになる。


「アー……助カッタニャア。口が固マッテテ辛カッタニャ〜」


聞けば、

さっき見た巨大な魔石は、このドラゴンのエサだという。


黒いホースは、

魔石から上澄みの魔力(チュール)を吸い取る装置で、

上に住むドワーフ達が、

勝手に資源として使ってたらしい。


「潤イガアッテ美味カッタニャア……

チュールハズルイニャ〜」


だが、ドラゴンが食えるのは、

その下層に溜まった乾いた魔力(カリカリ)だけ。


「パッサパサデ喉に詰マルニャア……」


それでも我慢して食って寝ていたが、

ある時ついに

「オエッ」

と嘔吐してしまったのだそうだ。


【我ノゲロガ国ヲ飲ミ込ンダ……アレハ事故ニャア】


三毛竜はそうしょんぼりと呟いた。


おっさんは煙草をくわえ直し、


「──やっぱり猫かよ!」


と虚しいツッコミは誰に届くでもなく、

噴火口の奥に反響していった。


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