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第二十話 なんかあんのか?この下に

翌朝、おっさんは思い付いた。


「二連梯子で行けんであんめーか?」


腰袋からズルズルと引っ張りだした梯子の、

頂点の滑車にワイヤーを通し、

端部を地面に固定してから、

伸縮用ロープを引き…


山頂目掛けて一気に伸ばす。


「ガラララララララララララララララララ!」


と、ロケットの様な勢いで伸びてゆく梯子。


一体、何千メートル伸びるのか…


風もそこそこ吹いているが、

不思議と倒れる気配もない。

まるで意思があるかの様に、山頂でピタリと止まった。


勝手に伸縮が止まった。


なぜ梯子にワイヤーを通したのかというと…


根元にウインチを取り付け、

荷上げ台車もセットし、そこに取り付ける為だ。


挿絵(By みてみん)


これは、おっさんが以前、

新築住宅の屋根瓦やねがわら施工(葺いた)した時に用意した道具で、

ウインチを巻き取る事により、

荷台を梯子の頂上まで昇降させてくれる。


大工にはなくてはならない道具だ。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


本来は、伸びて10メートル程度。

火山を登頂する為の道具ではないのだが…


伸びてしまったものは仕方がない。


荷台に娘を座らせ、

みーちゃんを見れば…


「フンッ」と不機嫌そうに、

舐めるなとでも言いたいのか…


打ち上げ花火のような速度で、

岩肌を駆けて行ってしまった。


まぁいいかとおっさんも座り、申し訳程度にゴム紐で

二人を束縛し…リモコンの「↑」を押せば…



ギュイィィィィィィィィィィィィ!!!


圧迫される内臓。霞む目…止まりそうな心臓。


それはまるで逆バンジー。

景色を置き去りに射出される荷台。


隣で両手を上げ、「きゃーー」と喜ぶ娘。



おっさんは…意識を手放した。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


──生臭く温かい布で顔を拭かれる──


夢かと思えば現実だった。


猛獣がおっさんの顔を舐め回して起こしていた。


「くせぇ…」


どの位失神したのか?

おそらく数秒だと思うが、


視界に映る景色は全く違っていた。


いや…その前に呼吸がし辛い…

慌てて防毒マスクを装着し、

携帯酸素ボンベを、

マスクのアタッチメントに取り付ける。


深く深呼吸をすれば、意識がスッキリと戻って来る。


トゥエラは…一応心配するが、

やはりなんの異常もなく…

いや、異常しかなく…はしゃいでいる。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


どうやら…山頂…

どでかい火山の噴火口まで到着したらしい。


おっさんは、荷揚げリフトでゆっくりと上昇しつつ

人史の有無を探そうと思っていたのに、

一瞬でこの標高…

雲の中にいるのか、モヤがかかって視界が悪い。


とりあえず安全ベルト(ゴム紐)を解き、

山頂と思われる大地に立ってみる。


下の方から、みーちゃんが駆け上がって来た。

どうやらあの猛獣のスピードすらも追い越したようだ。


抜かれたことが悔しいのか、不機嫌そうに

転がり、尾で地面を叩いていた。


トゥエラを見れば…


なにやら目を大きくし、すり鉢状の噴火口、

カルデラというのか?を見つめている。


おっさんが視線を追えば、

なんと…無数の建築物……の残骸が見て取れる。


だが、この登頂してきた山肌よりも、

噴火口の斜面は勾配がキツく、まるで崖である。


その岩肌を削ったりくり抜いたりして、

道を、家を建てて住んでいたのだろうか?


挿絵(By みてみん)



降りてみないと判らないが──

少なくとも、今のところ生きた人間の気配はない。

見えるのは、滅びた街の亡骸だけ。


おっさんは、慎重にアンカーを打ち込みながら、

娘を背におぶって火口の底を目指して降りていく。

途中、岩肌に穿たれた何かの通路跡を見つけた。

削り出された平坦な道だ。

かつて、ここが街への正規ルートだったのだろう。


そこへ足を踏み入れた途端、

背中のトゥエラが、突然ブツブツと呟き始めた。


「嘗て栄えた…ドワーフの…帝国…」


その声は妙に冷たく、感情の抜けた、

まるで古い石碑に刻まれた歌のようだった。


「竜の力を…我が物に…繁栄を極め…」


歩くたび、倒壊した石造りの建物の影が現れる。

その瓦礫の隙間から、腐ったような、

嗅いだことのない臭いが漂ってきた。

どこか甘ったるく、鼻に刺さる、腐敗の臭い。


「そして逆鱗に触れ…腐敗の呪いで…滅びた…」


歌い終わると、トゥエラは無言になった。


おっさんは立ち止まる。

足元に、かすれた石畳の模様が目に入る。

それは──

ドワーフ帝国の紋章らしき、

ハンマーと火山を象ったエンブレムだった。


「……カラオケかと思ったら、ガチ民族ソングじゃねぇか……」


思わず呟いた。


だが、背中のトゥエラは、どこか上の空のまま。

おっさんが知らない何かを、この娘は知っている。

それだけは間違いないようだった。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


歌い終えたトゥエラは、

元に戻ったのか、「だれもいないねー」と、


幼女声(いつも通り)


街の中央に大きな石造りの階段が現れ、

下へ…噴火口のほうまで伸びている。


そして奇妙な物も。


おっさん二人くらい入れそうな、太く黒い管…

地中埋設管(エフレックス)が地を張っていた。


街の頂上には城のような廃墟も見え、

奇妙な黒い筒は、

そっちの方から火山の噴火口へと伸びているようだ。


火口のまで降り、覗き込むが…


下は当然真っ暗な穴。

懐中電灯くらいでは何も発見できない。


「なんかあんのか?この下に」



長年建築に携わって来たおっさんでも、

全く見たことのない建物の様式、


地中や海中ケーブルの埋設などは、

大工の得意分野なのだが、

触っても材質もわからない謎の管。


興味が出てしまった。

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